文月ブログ

林業ビジターエッセイ-「かがわ木材加工センター」

林業の観点から見ると、香川は四国の中で異質な県です。高知・愛媛・徳島はいずれも林業が盛んで、高知と愛媛は年間50万㎥以上、徳島も30万㎥以上を産出していますが、香川はわずか1万3千㎥。(林業統計R3)全国でも沖縄・大阪に次いで下から3番目の少なさです。古くから讃岐三白(砂糖・綿・塩)の産地として知られた高松市は平野が広がり、降雨量の少なさを多くの溜池で補っています。そんな事情からか、戦後、日本中が拡大造林を進めた時期にも、香川の人々が植えた針葉樹は限定的な面積に留まったのでしょう。そんな高松市の奥座敷、塩江地区には広葉樹の森が延々と広がり、昔の薪炭林が手を付けられずに残っています。それをバイオマス利用できないかと考える地域のNPOに声をかけられ、私は先日、昨年に続いて二度目の塩江訪問をしてきました。

そこで見学させて頂いたのが、「かがわ木材加工センター」です。高松空港から近く、塩江温泉郷に行く道の途中にあります。県内には木材市場がなく、原木の産出量もごくわずか、そんな環境ながら、知恵を絞って木材を余すところなく使い、価値を高める素晴らしい製材・加工の様子を見て、私は驚きを隠せませんでした。

「このセンターの年間の原木使用量はどのくらいですか?」という私の問いに対し、A氏はこう答えました。「やろうと思えば8,000㎥挽ける能力があり、県からも量を増やして欲しいと言われる。しかし良いものも悪いものも、全量引き取らないと木は出てこない。だから年間3,200~3,500㎥程度になっている」と。

敷地内で最初に目に入ったのはうず高く積まれたパレットでした。これは低質材を使って作り、何とブルガリアにまで輸出しているそうです。扱う原木の9割は檜で、製品倉庫には立派な構造材や最も良く出るという縁甲板(フローリング材)、羽柄材の他に、トロ箱や梱包材、檜を特殊な金物で連結したグレーチング(側溝の蓋)までありました。グレーチングは自ら開発して特許を取られたもので、24トンの荷重に耐え、20年前に敷設されたものが今も使われているそうです。つい最近も近くのゴルフ場に採用され、門を入ってすぐの場所に敷かれているのを実際に見せてもらいました。

センターの中には製材機や乾燥庫が整然と並び、木材の強度や含水率を図るグレーディングマシンも設置されています。聞けば日本で約100工場しかない、機械等級のJAS認定を取ろうとされているのです。認定を取る費用も、その高い維持費も、製品の価格には中々転嫁できません。それでも将来を考え、挑戦する姿には頭が下がる思いでした。

そもそも、A氏がこのセンターを作った2011年当時、製材業は儲けが薄く、廃業する事業者が相次いでいたと記憶しています。しかしA氏は、自分がやらなければ県産材の行き場が無くなると、県にかけあい、大きな投資を引き出してセンターを設立したそうです。最近では、市場を通さないことが逆に木材トレーサビリティの担保につながり、県産材を使いたいという設計士やお施主さんの期待に応える存在になっています。会議室の天井には合わせ梁のサンプルが断面を見せる形で使われ、どんな注文も断らないという強い意志を感じました。計画中の公共施設では設計者と協議して材の調達に二年かけるなど、現場の事情に配慮したコーディネーターの役割も担っているようです。

中には、独占的な立場を利用して儲けていると陰で言う人もいると聞きました。高価な機械が必ずしもフル稼働していないことを問題視する人もいるかもしれません。しかし、生産された原木の良し悪しに関わらず引き取るという命題の中で、量と質のバランスを突き詰めた経営をされ、10人以上の雇用を生んでいるのは立派な事ではないでしょうか。

このような、地域材を活かそうとする責任感にあふれた木材加工センターは、この地域、更に香川県全体にとっての宝だと思います。広葉樹の利用に関する勉強会で、A氏はいくつも突っ込んだ質問をされていました。これからも決して甘い見通しに流されることなく、厳しい助言を通して実現を後押ししてくれるでしょう。まだゴールは遠いですが、この地域の木材活用に関わる人々を心から応援したい、そう感じた訪問でした。

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