文月ブログ

森と生きるために-木材の地域内利用の難しさ

先日、東北のある地域の建築関係の方々が、森林列島再生論を読んで触発されたと、ウッドステーションを訪れました。私も著者の一人として会合に出席し、その方々の悩みを伺うことになったのです。
その地域では、豊富な森林資源を生かし、地域内での連携や有効活用を図ろうと協同組合を結成し、木材関連事業所を近くに集める試みを進めてきたそうです。しかし、全体を統括する機能や手法がなく、結果的には各事業者が個別最適の経営を行っていて、仕入れも販売も域外の事業者との取引がメインになってしまっているとのこと。地域の材を生かす商流は生まれず、極端に言えば、わざわざ外から木材を運んできて加工・販売しているようです。
要因はいくつもあります。まず地域の山を管理する森林組合は、市場の需要とは関係なく補助金の出る範囲内で伐採や搬出を行います。急な依頼で杉を20本欲しいと言っても、伐り出してもらうことはできません。製材事業者が担うのは丸太の製材だけで、近年必須になってきた乾燥という行程には責任を持ちたくないそうです。そしてプレカット工場は、品質の問題から地場での調達が難しい梁桁などを大手の集成材メーカーから仕入れるしかなく、発注側からは加工賃を低く抑えられて四苦八苦しています。工務店や設計事務所は、大手ハウスメーカーとの差別化に地元の木を使いたくても、上記の理由で叶わないのです。
このような不適合は日本中で起きていると言っても過言ではないでしょう。長く続いたデフレの時代、日本人の購買力は下がり続け、人口減少で着工件数が減っていく中で、価格の圧力はより力の弱い川上、つまり森林側に押し付けられてきました。農協のような利益代表がいない山主はそれを受け入れざるを得ず、結果的に補助金が無くては伐採・搬出で利益が出せない、産業未満の状態になったのです。負の連鎖が絡み合った状態を変えるのは容易ではありません。
こんな地域の状況を何とかしたいと考えていた方々は、森林列島再生論を読み、解決に至る光明を見出して訪ねて来られたのでしょう。彼らに向かって塩地氏が力説したのは、各事業者の取扱量と価格を徹底的に調べ、工務店・設計事務所の発注できる棟数・木材量とすり合わせて最適解を出せ、ということでした。建築データから詳細な部材情報を逆算する、言わば川上・川下の情報をつなぐ共通言語は木造大型パネル(https://woodstation.co.jp/service/product.html)の技術です。最も重要なのは、地元産の木材を使った家を施主にいくらで何棟売れるのか、そして山にどんな種類・品質の木がどれだけあるのか、その二つの交わった点が目指すべき生産量なのだという認識を持つことです。山から最も高く買い、施主に満足してもらえる価格で売ればいい。現行では建築用製材品の最終的な歩留まりは約3割という研究もあり、7割を圧縮すれば十分可能なはずなのです。
恐らく、この地域の課題解決に必要なのは中心的な役割を果たす組織の設立でしょう。複数の人間が腹をくくり、関係者の利益の総和を上げる提案で業態転換を促していくのです。その際の有力なエビデンスとなるような森林直販の具体例と詳細な数値データを提供する、それを自身の重要な任務だと考えて取り組みます。

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