文月ブログ

森と生きるためにー災害復興と住宅

短い秋からいきなり冬になる予感がするこの頃、頑丈で温かい家に住んでいる自分の幸せを改めて思う話を聞きました。東日本大震災やその後の災害でも仮設住宅が多く作られましたが、その品質が人間性を無視した劣悪なものだったというのです。長く居つかれては困るという理由から、薄い壁は冷暖房の効率が悪く結露でカビが酷いうえ、隣室の小さな音も全て聞こえてしまう。ウォシュレット付きの方が安いのに、贅沢品はダメだと割高なウォシュレット無しトイレが設置される。しかも北海道の胆振東部地震の際には、一世帯当たり1000万円を大きく超える価格にも拘らず、二年後に解体された時は9割がゴミになってしまったといいます。

誰の幸せにもつながらない、こんなでたらめが許されるのかと、立教大学の長坂俊成先生が立ち上がり、「日本モバイル建築協会(https://mobakyo.or.jp/)」という一般社団法人を設立されました。長坂先生はもともと建築ではなく、リスク管理の専門家です。にもかかわらず、被災者を襲う二重の苦しみに対する義憤から、移動ができ、居住性に優れ、しかも60~70年という耐久性を持つ木造恒久住宅を開発し、世に広めようとされています。劣悪で時間のかかる仮設住宅を経ずに、恒久的な居住も可能な本設の家を素早く供給する、それは大きな災害になるほど困難な事業です。しかし、災害の多発が予見される今の日本では避けて通れないだけに、むしろそれによって地域経済を牽引するくらいの発想の大転換をすべきなのでしょう。普段は社会インフラとして、ホテルや研修施設・コミュニティカフェなどに利用し、災害時には被災地に移設して質の良い住環境を提供する、このような社会的備蓄を推進することが、災害に強い社会の形成につながると、先生は訴えておられます。

しかし、南海・東南海地震に備えようとすれば、200万戸もの備蓄が必要だそうです。年間の木造住宅の着工戸数は50万戸程度ですから、その4年分に相当する大変な量になります。先述したモバイル建築は単純な作りで、縦横に連結はできますが、同じ物ばかりでは多様なニーズに応えるのは難しいでしょう。地域の木材で、地域の工場で製作するのが理想ですが、そのような生産ができる事業者はごくわずかです。そこで、長坂先生は木造大型パネル(https://woodstation.co.jp/service/product.html)の普及を進めるウッドステーションの塩地会長に提携を働きかけました。木造大型パネルの住宅は自由設計で、しかも解体して移設することが可能です。企業版ふるさと納税の制度を活用し、企業が自治体に災害時の備蓄となる建物を物納してもらうことで、普及にはずみをつけようとしているのです。できる限り地場の木材を使い、地元に雇用を生み出すことを通じて、社会の災害への耐性を強化していく、それは森林連結経営が目指すものとも合致します。

森林列島再生論で示した未来予想図が、同じような志を持った方を惹きつけ、更に大きな渦となって回り始めました。変化を厭う人達には、台風のように災厄をもたらす存在になるかもしれません。しかし望ましい未来のために現状を打破したい人々にとっては、溜まった泥を一掃し、新しい流れを作る勢力になっていくと確信しています。

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