文月ブログ

森と生きるために-ウッドデザイン賞

今年のウッドデザイン賞の応募締め切り日が迫ってきました。去年は大型パネル生産技術の応募に関し、ほんの少しですがお手伝いしました。見事、林野庁長官賞を受賞したと聞いた時は、嬉しい反面、もっと力になれていたらと後悔もありました。私はそれ以前に、ある木材製品について、ウッドデザイン賞の応募を代行したことがあります。板の表面に特殊な塗料を塗り、ホワイトボードのようにマーカーで字を書いたり消したりできる製品で、A4やB5サイズの板に浮世絵を印刷し、外国人向けのお土産にもなるように開発された商品でした。一時審査は通ったものの受賞はできず、コロナによる外国人観光客の消滅もあって、商業的にも成功することはありませんでした。今思えば、商品自体の魅力はあったものの、頼まれて仕方なく、自分一人で作ったプレゼン資料には、全く訴求力が足りなかったと思います。
大賞に値するようなプレゼン資料は、個人でなく組織の力で作られます。企業は取引先への企画提案にあたり、よく何十ページもある企画書を作ってプレゼンを行いますが、ウッドデザイン賞では5ページまでと決められています。そこで何を表現するのか、わかりやすさと説得力をどう両立させるのか、写真やグラフなど素材の入手、専門用語や技術のチェックなど、そこには一人の力では到底及ばない、組織の力が反映されると感じます。
今回私は、ウッドステーションが中心となって応募を進めている、3つの作品に関わりました。一つは大手エネルギー企業と連携した、省エネ住宅に関する新サービスです。二つの会社が持つ多くの説明資料や写真素材、新しいサービスの構築に向けた担当者の熱意が、優秀なクリエイターの手を経て素晴らしいプレゼン資料に仕上がりました。これこそ組織の力だなと改めて感じた内容です。
もう一つは、ウッドステーションと信州大学が進めようとしている、山の資源情報と建築のデジタル情報の連携について、学生二人が共同でまとめた研究部門への応募です。こちらは、当初二人が書いて来た絵を、ウッドステーションの塩地会長は「線も色も意味が無い、ただ書いただけで何も伝わらない」と一蹴しました。そして彼らが何をしたいのか、伝えたいことは何かを整理できるよう、オンラインで何度も厳しく指導しました。二人は恐らく必死で考え、アイディアを出し、使える画像をネットで拾い、伝えたい言葉を真剣に探したのでしょう。内容は次第に充実し、最後は精緻で力強い、プレゼン資料ができあがりました。その時、塩地氏は二人に言ったのです。「これは応募のための制作ではない、君達がこれからやりたいこと、その意味と価値を整理するためのものだ。先生や先輩達に、この内容を説明しなさい。」と。私は今回初めて、相手の成長を思って厳しく叱る、何時間もかけて本気で話し合うという形の優しさをじかに目にしました。私自身にとっても、大きな学びを得る経験だったと思います。
そして最後が、私も開発に関わり、普及を進めようとしている、無垢材を大型パネルに使えるようにする製造ラインの研究です。正直なところ、考え始めてようやく、私自身が内容を深く理解できていないことに気づきました。なぜ無垢材なのか、簡単に言ってしまえば、加工点数が少ないから、それだけのことですが、それを使うことがどうして木材の価値を上げることにつながるのか、一般の人に説明することは難しいのです。自分もいつしか林業や木材業界の考え方に染まり、実際は良くわからないのに、常識だと思い込んでいることがいかに多いか、改めて気づかされました。できる限り整理して書いてみましたが、まだ具体的なエビデンスに乏しく、正直なところ、今回は受賞レベルに達しないかもしれません。それでも、この賞への応募という行為をとおして、事業の方向性を定めたり、弱点を克服したりする機会に生かせれば、決して無駄になることはないと自分に言い聞かせ、最後まで取り組みたいと思います。

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