ひと昔前、務めていた会社でシステム開発に関わっていた時期がある。こちらが必要とする機能をシステムベンダーに正確に伝えるための「要件定義」という作業に、とんでもなく長い時間と人手、労力を費やした。私達と密に打合せしながら実際にプログラムを書いているのは下請け会社の人なのに、期待どおりに進まないのは「要件定義が不備だから」だと言い放つ元受けの大手企業の担当者には不信感しかなかった。それでも当時は、「人の作業を機械にやらせる」ために特殊な言語やプログラミングの能力が必要で、納期の大幅遅延や開発費の倍増など理不尽な目に遭っても、受け入れる以外になかった。
最近のコンピューターの処理速度や通信環境の向上、そしてAIの進展は、そんな状況を劇的に変えたと思う。今は働く人自身が直接AIと壁打ちしながら、自分が欲しかったシステムを作り上げることができる。そこで最も重要になるのは、現場で地道に鍛えられてきた頭脳や技術、そして積み上げられた正確なデータだ。手足を動かして働いてきた人、この先使うかどうかわからなくても記録を丁寧に整理して保管し続けた人が勝者になる。
林業の世界でも、経営支援システムをゼロから作り上げる素材生産事業者が表れた。レーザー測量データを駆使し、自由に選んだ対象地域ごとに、最適な道の通し方や収益見通しを細かくシミレーションできる。そこには、行政の補助金は平面の距離で算出されるが実際の道作り費用は斜距離で計算しなくてはならないとか、樹高が25mの木ならこの範囲までは倒せば道に届くとか、現場での経験に基づくノウハウが詰まっている。現場作業の難易度や採算性を左右する要素をつぶさに拾い上げ、パラメーターに落とし込む作業は、勘や経験値を因数分解して精緻な見積もりの基礎を作る地道な努力の積み重ねだったと思う。彼らのシステムが設計図書と連携すれば、最適な造材と施工者への直販が可能になる。商機が見えれば、中小の製材事業者から少量・多品種の製材・乾燥オペレーションの技術革新も生まれるだろう。
先ごろ、1000億円規模の森林ファンドがスタートするという報道が流れた。森林への投資が増え、注目が集まるのは良い事だが、7%という利回り想定には疑問を持たざるを得ない。もし本当に高い利益が生まれるのなら、ただお金を出しただけの人ではなく、森で働く人、その地域で生きていく人達が受け取る方がいい。
巨大資本が率いるファンドと、働く人が自分達で作り上げたシステムと、どちらがより多くの人を幸せにし、森を健全にしていくのか、本当の競争が始まろうとしている。
文月ブログ
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