文月ブログ

FSCの普及を妨げるもの

FSCという森林認証(森のエコラベル)がある。欧米・オーストラリアをはじめ、最近は香港・中国などでも認知度が高まっているそうだ。日本では紙製品がかなり浸透してきたものの、木材では中々広まらず、認証を取得した森林も、その森から出た木材を使った製品もとても少ないのが現状だ。
FSCは世界統一の原則や地域ごとに認められた基準に合致しているかを第三者機関が審査する厳しい制度なので、認証を取得・維持するのにコストがかかり、しかもそれを製品価格に転嫁するのが難しい。本部はドイツのボンにあり、所詮欧米の作った基準だという反発もあってか、日本は独自のSGECという森林認証を作っていて、そちらの方が認証林の面積を増やしている。
森林が維持されるならどちらでもいいという意見もあるだろうが、やはりFSCには、維持に必要なコストを支払ってでも、より良い森林管理を行おうとする取得者の熱意を反映した高い実効性という特長がある。最近、FSCジャパンの事務局長に就任した西原智昭氏は長年アフリカで野生動物の保護に取り組んでこられたが、FSC認証林とそうでない森林では、動物達の置かれた状況が正に天国と地獄なのだそうだ。環境への配慮を欠いた森林伐採で密林に道路が付けられると、密猟者が簡単に入って来られるようになる。そして現地の人々も、野生動物を狩ってその肉を市場に売るので、動物が生息する痕跡は消え失せてしまうらしい。FSC認証林では、先住民の権利を守るという原則に従い、事業者は彼らの生活を保障し教育の機会を提供している。森に分け入ればゴリラのような大型の哺乳類も普通に見られるのだそうだ。
先日、FSC認証材の価値を高める方法を議論する会議に参加したが、そこには名だたる大企業から地域工務店、林業・木材関係者まで、多種多様な人達が集まっていた。建築・建材、エネルギー、商社、金融、行政、NPOなど、現場の実態に詳しい人ばかりではなく、具体的な解決策をまとめていくのは簡単ではなさそうだ。それでも、参加者は会社を代表し、真剣に答えを出そうとしていた。世界的な動きとして、TCFD=企業活動がCO2排出削減にどのような影響を与えるかを洗い出し、それを改善するための具体的な行動を示すよう求める運動が、最近ではTNFD=企業活動が生物多様性を含むより広い範囲への影響と対策を開示するよう求める方向に変ってきている。そのような流れの中で、FSCのネイチャーポジティブへの実効性の高さをアピールするべき、という声には確かに説得力がある。
しかし日本でなぜFSCが広まらないのか、その背景には、FSCに限らず森林全体に関する大きな認知の壁が立ちはだかっていると私は思う。大規模な伐採後の再造林率が35%程度、それはいずれ使える資源が枯渇することを意味しているのに、なぜ大きな問題にならないのか、多くの日本人が森林に良いイメージを抱きながら、なぜ自然の実像に触れようとしないのか、人々の日常から遠くなり、風景でしかなくなった森林を、どうやって暮らしの中に引き戻すのか。その答えを私はずっと探し続けている。

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