文月ブログ

森と生きるために-モック(山長グループ)の大型パネル工場

紀州材の製材・プレカットで年間1200棟を生産する山長グループ。モックはその首都圏での販売を担う、中堅の建材商社です。千葉市稲毛区に新設された工場の本格稼働を前に、社長の榎本氏に話を伺いました。
印象深かったのは、プレカットが広く普及する前の状況と、今の大型パネルが似ているのではないかというお話です。(木造大型パネル詳細:私たちの製品|ウッドステーション株式会社 (woodstation.co.jp))ご自身がモックに入社された平成6年頃、プレカットはまだ新しい技術でした。山長グループはプレカット工場の中でも後発で、匠の会という、質の良い木造住宅を建てようとする大工さんの会と提携し、機械の改良などを行いながら、平成9年にプレカット事業を開始しました。その翌年の平成10年頃、信頼性や合理性が広く認知され、プレカットが一気に普及し始めたそうです。どんな革新的技術も、最初は小さな試行から始まり、緩やかな成長や失敗・停滞を経て次第に大きくなり、ある閾値を超えると急激に拡大する時期を迎えます。プレカットにおいてその普及の経緯を見て来た榎本社長だからこそ、得られた展望だと感じました。木造大型パネルは、大工さんの減少、サッシをはじめとする建材の重量化、高気密高断熱など要求される施工精度の向上などから、今後必ず一般化すると見越しての、今回の投資だったのでしょう。
もう一つなるほどと思ったのは、紀州材を使うことへのこだわりと同時に、大型パネルで国産無垢材を使う際の使用可能範囲の見極めをしたいという事です。紀州材に関しては、山長グループが先祖代々守り、ブランドを築いてきた地域材ですが、紀伊半島から首都圏までの輸送コストなど、こだわることのデメリットも少なくないでしょう。しかしそれを失った時、他の大手建材商社と同じ土俵で争うのは明らかに不利で、面白みも無いと言います。そして国産無垢材の用途を広げるためにも、大型パネル化にどこまでの精度が必要なのかを自社工場で試したいという話に、私は思わず身を乗り出しました。ミリ以下の精度が要求されるため、集成材が原則とされる大型パネルですが、実際のところはどうなのか、誰もまだ深く追求していません。自社工場なら、試みてダメならやり直せばいいのですから、無垢材の品質の許容範囲を見極めることができそうです。季節要因や、設計上の要件、作業員の熟練度など、様々な条件の元で、どの程度の材までが使用可能なのか、知見が積み上がっていくことでしょう。それは、他の地域の工場で地元材を使おうとする人々に、大きな恩恵をもたらすことになるはずです。
最後に榎本社長は、木造を支えているのは大工さん、だから、大工が集まって交流し、造作などの作業ができる場にもしていきたい、そこから新しい技術や人材が生まれてくることに期待していると仰いました。例え困難であってもこの道で間違いない、そんな確信に満ちた笑顔と語り口が、この工場の行く末を明るく照らしているようです。

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