文月ブログ

森と生きるために-気候変動と木材

ヨーロッパに生育する樹木の種類は、アジアや日本に比べてかなり少ないそうです。その原因は、何度も訪れた氷河期に多くの樹種が生き残れず、数が減ってしまったからだと言われています。日本の場合は、南北に細長い地形のため、緯度では北海道がイタリアやスペインなどヨーロッパ南部、九州はモロッコやアルジェリアなどアフリカ北部の範囲に位置します。数万年単位で繰り返す氷期と間氷期の間、日本の樹木は南北に生育場所を移しながら、生き延びてきたのでしょう。
しかし、現在私達が引き起こしている化石燃料の大量使用による気候変動は、あまりに急激で、樹木が適応できるタイムスケールを遥かに超えています。既に、平均気温の上昇で北海道が米の栽培適地になり、フランスのブドウの生産者が将来を悲観する事態になっています。同様に樹木も、本来好む生育環境とは程遠い場所で育つことを、余技なくされているのかもしれません。樹木が高温などのストレスを受ければ、虫や病気への耐性も落ちていくでしょう。ヨーロッパでは温暖化で虫の害が広がり、その木材を何とか使うためにCLT(挽き板を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料 https://clta.jp/clt/)が生まれた、という説もあります。
更に、夏に高温乾燥となる地域では近年、森林の大規模火災が大きな問題となっています。皮肉なことに、これまでも毎年起きていた小規模な火災を消化するようになったことが、火災が大規模化する要因の一つと言われています。落雷などによる自然発火で、一定の面積が燃える、それが防火帯となり、火の無制限な拡大を抑えていたことがわかってきたというのです。財産を守ろうとする人間の活動が、結果的に手を付けられないような大火災を生む。そのような自然の複雑さに対する謙虚さを、私達は取り戻さなくてはならないと感じます。
幸いなことに、日本の夏は高温多湿で、私達の感じる不快さは森林火災の発生を抑えてくれているとも言えます。通常は雨の少ない中緯度帯で、これほど多くの雨に恵まれるのは、ヒマラヤ山脈に遮られて気流が大きく蛇行しているからのようです。太平洋で暖められた水蒸気も台風となって列島に雨を降らせます。これほど恵まれた島に暮らす私達が、日本で自給できる資源である木材を有効に使うこと、そして自らは動けない樹木の代わりに、植林という形で気候変動への対処を手伝うことが、この列島に暮らしていく上で欠かせない知恵なのではないか、そう思う毎日です。

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