文月ブログ

森と生きるために-気候変動と住宅性能

「家の作りやうは、夏をむねとすべし」とは、良く知られた徒然草の一文です。冬はどんなところにも住めるが、夏に暑い家は耐え難い、と続きます。吉田兼好が住んでいた京都は、昔から冬寒くて夏は暑いところと言われていましたし、それ以外の地域でも、障子や襖を開け放てば風が通るように、家の向きなどを工夫して建てていたようです。そこには、湿気が家の土台や柱を腐らせ、寿命を短くするという事情もあったでしょう。
とは言え、最近では地球温暖化と都市化の進行で、35度を超える猛暑日が珍しくありません。鎌倉時代のように風通しを良くするだけでは、体調を維持できない暑さが標準になってしまっています。江戸時代、加賀藩から毎年、氷室で貯蔵された氷が将軍に献上されていたそうですが、着くころにはだいぶ小さくなっていたと記録にありますから、今夏のような気温では到着前に全て溶けてしまったことでしょう。
室内ではエアコンで涼み、外に出ると蒸し風呂のような暑さに晒され、中には私のように、寒暖差によって自律神経が乱れ、だるさや片頭痛に悩まされる人も出てきます。ことに辛いのはエアコンによる冷えで、室温を高めに設定していても、足元は寒くて膝掛をするほどです。
そんな悩みを解決してくれるのが、高気密・高断熱の家らしいということが、建築について学ぶ中で次第にわかってきました。昔、このような住宅が普及し始めたばかりの頃には、建築士の免許を持つ女性が「私はこんなタッパーウェア(密閉容器)みたいな家に住みたくない」と言っていたのを聞いて、漠然とマイナスのイメージを持っていました。しかし、最新の科学的な実験によって、不快の原因になる室内の局所的な温度差が無いことや、夏も冬も一台のエアコンで家中を快適に保てることが明示されると、考えは変わりました。何より、そんな家に住む人々の明るい笑顔や健康的な生活への感謝、省エネ効果への驚きが、木造住宅で叶えられること、それが深く心に響いたのです。そこに国産材の利用を更に拡大できれば、地域資源と建築需要の「幸福な循環」が実現するでしょう。
住宅価格の高騰で、最近は質の悪い建売住宅も増えていると聞きます。何十年もの間、毎日快適・健康で光熱費の安さを享受できるか、体の不調と高い光熱費を我慢し続けるのか、住宅を購入する人は、ローンの返済額だけでなく、その違いを十分検討して欲しいと心から思います。

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