森林連結経営の担い手として提案したいのは、山主・木こり・製材・大工(工務店)・不動産といった人々が、垂直統合組織を作ってオープンな経営を行うことです。森林が利益をもたらすなら、再生産を考えるのは当然でしょう。採算の見込めない場所は別として、適地への再造林を高値での原木買い取りの条件とする、垂直型の組織ができれば良いのではないでしょうか。
既に最も近い形態の経営を実現しているのは、紀伊半島に広大な山林を所有し、素材生産から製材・プレカット・大型パネル工場を持ち、住宅販売までを手掛けている山長グループでしょう。急峻な地形ゆえに、皆伐・架線集材を強いられる地域ですが、祖先から受け継いだ山を大切に守ろうとする意志は、背骨のように企業経営の中心を貫き支えています。
そこまで大きな資本がなくても、地域の山を生かし、そこで暮らし続けようとする人が中心となって、垂直型の共同組合を作ってはどうでしょう。再造林やその後の手入れは誰がし、費用はいくらか、林業機械の減価償却費はいくらで、担い手の収入や安全装備は十分か、製材工場の歩留まりや手間賃は適正か、大型パネル工場で製造に携わる工員の労働条件や報酬に無理が無いか、そういったことを全てオープンに話し合い、利益を分配するのです。「共同労働」に近いこのような組織が有利になるように、技術移転を進めていくことも考えられます。
共同組合はハードルが高いというなら、企業連合・地域内のネットワークでも構いません。山の適正な維持管理を共通の目的とするつながりができ、その人々が大型パネル工場を建て、利益を生み出して公平に分配し、山に還元していく、それができればいいのです。地域には独自のしがらみや貸し借りの関係が存在しますが、信頼のおける人同士がつながり、近隣の大型パネル工場との取引といった、小さな試みから始めてみてはいかがでしょうか。正しい志は必ず仲間を呼びます。いつか、自分達もやってみようという機運が醸成されていくでしょう。
恐らく最大の強みは、このような組織が横につながっていくと、お互いの情報をネット上で共有できることです。地域の外には出ていかないので、他の組合とは競合しないからです。特に失敗の経験の共有は重要です。日本の企業は失敗を恥と捉え、責任追及を恐れて隠ぺいし、そして同じ失敗を繰り返してきました。垂直型組織は情報をできる限りオープンにするのが原則ですから、失敗した時はその原因を解明し、誰かを責めるのではなく、仕組みを改善します。
うまくいった方法も、その背景や前提条件と共に公開します。無垢材の乾燥方法などはいくつものバリエーションがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。従来は技術を磨いても製品の価格に反映しにくく、製材業者間でも切磋琢磨する雰囲気はあまりなかったと聞きます。しかし大型パネルに無垢材が使えれば、利益はけた違いに膨らむのです。他の組合はライバルではなく、知見を共有し、足りない部材を融通し合う仲間なのですから、積極的にノウハウを公開し合います。お互いに自分の地域に適用できるかどうかを検討し、可能性があればどんどん取り入れればいいのです。そんな風に、オープンでイノベーションに満ちた企業活動が実現していけば、その地域には確実に人が集まり、森を中心とした様々な産業が開花していくでしょう。
これをただのお伽噺だと思う人もいるかもしれません。
決してそうではないと、私が考える理由を、明日お話しましょう。
文月ブログ
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