2018年に自力でホームページを開設した頃、私は「FORESTREAM(フォレストリーム)」という任意団体を立ち上げていました。FORESTREAMは、2012年頃、国産材ビジネスセミナーで自分のブログを書こうと勧められた時に考えた造語です。フォレスト(森)とストリーム(流れ)を組み合わせ、「森の気流」「森への流れ」をイメージしたのですが、最初の一話を書きはしたものの、後が続きませんでした。当時はネットで検索してもヒットしなかったので、少なくともネットに載せたのは私が最初だと思いますが、その名を関した放送局が一時期存在していたようです。
任意団体を作ったのは、木材関連の知人に誘われ、ある公的機関の助成金を得て、広葉樹の価値向上についての調査を行うためでした。レーザー計測によって、森の資源量を知る技術が広まっていた頃で、計画的な生産が行われていない広葉樹の利用を拡大し、地域の経済を潤すために、可能性や課題を調べる目的がありました。申請が認められ、私達は知人の紹介で、福島で業績を上げているという二つの素材生産事業者を訪ねたのです。結論を先に言えば、私達の目論見と現実との間には大きな乖離があり、すぐには超えられないことを知る旅になりました。しかし、それぞれの事業者から、その後の活動を続ける上で、忘れてはいけない重要な学びを得たのも事実です。
最初に訪れた素材生産会社の社長は、私達の訪問をあまり歓迎していませんでした。知人に頼まれたから仕方なく時間を取ったというのが正直なところでしょう。仕事の現状や、広葉樹の伐採・搬出に関する私達の質問に対し、率直に答えてはくれたものの、言葉の裏には、現実を知らない都会の人間に何がわかる、と言いたい雰囲気がありました。特にIT化に対しては真っ向から否定されたのですが、その理由が強く印象に残りました。ITCを活用して場所や生産量、樹種や品等などを把握できるという提案に対し、「全部把握されたら困る」というのです。景気や相場には波があるので、中小企業はそれに対処するために、いくら儲けたかを知られたくない、隠すのが当然だという考えでした。私はずっと大手企業で働いてきましたし、いわゆる脱サラで商店の経営を始めた父も、「数字をごまかす」「儲けを隠す」という発想の無い人でした。(だから倒産したのかもしれません)ですから、そのような考えを堂々と表明する人に会ったのは初めてでしたし、同時に、それがある意味、この業界のスタンダードなのだと思わざるを得ませんでした。全てではなくとも、そのように考える人が珍しくないのだという現実を知ったのです。
次に訪れた会社の社長は、まだ若く、地域を良くしたいという思いに溢れたパワフルな人でした。遠方から訪れた私達をねぎらい、熱心に話をしてくれましたが、ここでもショッキングな現状を突きつけられました。伐採現場で太い広葉樹があった場合、スマホで樹種や市況を調べ、価値があれば長めに造材する、といったことができないかという私達の提案に対し、彼はこう言ったのです。「そんなことができるヤツは都会に出ていく。ただ2メートルに切ってトラックに積むだけの仕事だからできる、俺はそんな奴らの仕事を作っている。」確かに世の中には様々な人がいて、努力すればできるなどという言葉は時に空しく響くものです。彼は決してそのような人々を見捨てず、地域の存続のために雇用を生んでいるのです。もちろん、現場の林業従事者が全てそうだという訳ではありません。実際に有名大学を卒業してきこりになっている人を何人も知っています。しかし、少なくとも私達が訪ねた地域ではそれが実体ですし、全国的にIT化が中々進まないという実情の裏に、そのような理由もありそうだということを、私ははっきり理解しました。
この視察の報告書を作成し、私は初めて交通費実費として、助成金を受け取りました。もとは税金だということを忘れず、この経験を無駄にすまいと誓ったものです。それまでも、多くの林業・木材産業を視察してきた私ですが、そこで働く人々のリアルな現実を目にした経験を、決して忘れることはないでしょう。今の私が目指す、木材の価格向上と、建築やバイオマスを含めた林産複合体の実現によって、いずれは地域に優秀な人が残り、共に汗を流すようになる日が来ると信じています。
文月ブログ
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