文月ブログ

森を巡る旅-言葉の探求その7「佐伯広域森林組合との出会い③」

「佐伯スピリット」、ようやく相応しい言葉を探し当て、私は視察の様子をレポート①にまとめることができました。自分が見聞きして感動したことを丁寧に記し、100%再造林の取り組みと、個性も能力も様々な人達がそれぞれの職場で誇りを持って働いていることの素晴らしさを、その言葉に込めて紹介したのです。どのように受け止められるだろうか、という私の心配をよそに、レポートは組合の方達に驚きと喜びを持って迎えられました。恐らく自分達が気づかなかった佐伯の良さを、先入観を持たない外部の人間が捉え、評価してくれたことがとても嬉しかったのでしょう。レポートはコピーされ、従業員の皆様に配られたと聞いています。最近では林業・木材関連の視察者が少なくない佐伯広域森林組合ですが、多くの来訪者が興味を持つのは、立木の買い付け価格や再造林費用の捻出、原木の販売価格や売り先、製材品の生産量と歩留まりなど、事業内容に関することが中心でしょう。私のように、働く人の表情や意識に注目したレポートは誰も書かなかったのだと思います。
一方で、レポート①を読んだ佐伯の関係者から、ある指摘をされました。再造林のために多額の補助金を使っているのに、佐伯型循環林業とは名ばかりだというのです。私もそのことには気づいていましたが、数億円という金額を聞いて驚きました。そこで、レポート②には、その状況を変えていくための提言を書くことにしたのです。
佐伯では、年間25万立法メートルの原木を生産し、約11万立法メートルを自社の製材機で加工しています。しかし、実は製材機の性能に最も適合する直径の丸太は、自前の木材では足りず、外部から購入しているのです。しかし、現在年間数十棟に過ぎない大型パネルの住宅を更に増やし、例えば1000棟にまで拡大したならば、地元の木材で住宅の梁桁や柱を生産し、サッシや断熱材などの利益まで取り込むことで、大きな利益を上げられます。効率を犠牲にしても、利益率が上回り、外部からの丸太の購入費は不要、再造林補助金も要らなくなるのです。そうすれば、真の意味での佐伯型循環林業が成立するでしょう。大分県の年間の木造住宅着工戸数は、約4000棟と言われています。大型パネルの製造は工務店の仕事を奪うのではなく、彼らの事業パートナーになることなので、大工不足の業界において、決して不可能な数字ではありません。遠い場所ではなく、地元に住む人の住宅を、地元の木で建てれば良いのです。
そのような提言を書いたレポート②は、佐伯の人々の心を掴んだレポート①ほどには、歓迎されなかったように思います。ようやく上手く回り始めた事業を、更に変革せよと言われれば、「喜んで」と言いにくいのは当然でしょう。予想どおりの反応に多少の落胆を覚えながらも、佐伯の人々は必ずそこに向けた挑戦をしてくれると、私は信じています。
農産物や水産物と違い、木材は伐ってから製品になるまでに多くの時間と手間がかかります。分業化が進み、これまでは海外材の梁桁や、他の地域で作られた集成材・合板などを利用して、多くの住宅が建てられてきました。それは利益が運送コストに消え、山にお金が還らない、再造林が進まない状況を生んできたのです。地元の木材で住宅を建てる、昔はそれが当たり前だったのに、近代資本主義の中で私達がいつか手放してしまった行為です。それを再び、建築のデジタル化によって可能にすることを、私は「森林直販」と名付けました。その実現は、日本の森林の再生を促し、地域で生きる人々を支えることでしょう。
佐伯広域森林組合は、私にそのような多くの気づきや、今後のビジョンを与えてくれました。私にとって、書くこと、言葉を探すことが、人を動かし明日を創る仕事なのだという思いが、自分の中に芽生えてきました。

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