文月ブログ

林業ビジネスチャレンジ-もくレースペンダント

土佐嶺北の「ばうむ」が制作販売する「もくレース」には、コースター以外にも様々な商品があります。その中で、マグネットとして販売されている直径5センチほどの小さなもくレースは、まとまった数量なら事業者向けに加工素材として卸していただくことができました。手作りモクレースのワークショップでは、まだ彫刻刀を持てない小さなお子さんなどに対し、その小型のもくレースに金具を付けて革紐を通し、ペンダントにしたものも用意していました。コースターは使い道が無い、という方も、ペンダントなら身に付けてみようかと購入される方がいて、そちらも人気がありました。
そんなもくレースのペンダントをお土産品として置いてもらったのが、「深川モダン館」という施設です。江東区の門前仲町にあり、昭和7年(1932)に東京市営の食堂として建築された建物は、平成20年に国登録有形文化財に指定されました。そんな歴史にちなんで、江東区の近現代史や食文化に関連した展示やイベントの開催なども行っています。昔、近くに仙台藩の屋敷があり、海路で運ばれた宮城の物産が堀を通って集められ、江戸市中に流通していた歴史から、仙台・秋保のワインや食品、木工品やガラス製品を集めた即売会が開かれたことがありました。私は同じ日に手作りもくレースのワークショップを開いていましたが、宮城の出展者の方が体験してくださったお礼や、並んでいた商品に心惹かれたことから、販売のお手伝いをしたことも懐かしい思い出です。
そんなご縁があって、モダン館の施設管理者から、もくレースペンダントを土産品として販売しないかというお誘いをいただきました。もともと、記念品として、江戸情緒あふれる絵柄の手ぬぐいなど幾つかの品物が販売されていましたが、種類を増やしたいとのことでした。来場者数や過去の販売実績から、そう多くの個数が出る訳でもなさそうです。ほんの小さなビジネスですが、私はやってみようと思いました。深川はもともと古くからの木材の集積地です。土佐嶺北の杉でできたもくレースペンダントも、その事を記載したうえで、「木の町深川」のお土産品と謳えば、違和感がないのではと思ったのです。
3種類のもくレースに3色の革紐、組み合わせは9種類になり、お客様にはその中から好きなものを選んでもらいます。一つ一つを透明な袋に入れ、商品名と先ほどの説明を印字した台紙をつけて、丁寧に包装しました。このペンダントは、月に0~1個程度、細々と売れ続けました。在庫が少なくなると連絡が来て、また少し作っては補充する、そんな状態が続きましたが、コロナのために来場者が激減したことをきかっけに、補充をやめました。
物作りを生業にするなら、どんなに小さな販売先も疎かにしてはいけないと、私はこれまで様々な経験から学んできました。ですから、単に売上が少ないからもうやめよう、というのではなく、これが本来自分のやるべきことなのか、という問いに向き合った結果の判断でした。どんなに小さなビジネスでも、それを通して得たものがあり、やってみた経験は他の誰でもない、自分のものです。そこには誇りを持ちつつも、私は今、自分が本当にやるべき仕事を見出し、そこに全力を傾けようとしているのです。土佐嶺北杉でできた小さなもくレースのペンダントが、一時でも誰かの目に留まり、胸元を飾り、慈しんでもらえたとしたら、そんな機会を提供できた幸せを、明日への糧にしたいと思います。

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