文月ブログ

林業ビジネスチャレンジ-レーザー加工機用板

2012年頃のこと、日本の各地に「ファブラボ」と呼ばれる、3Dプリンターやレーザー加工機を使った物づくりができる施設が数多く誕生していました。その中でも比較的早く活動を開始した鎌倉の施設に体験に行ったことがきっかけで、レーザー加工機用の板の仕入れと販売に挑戦することになりました。
当時、3Dプリンターやレーザー加工機はまだ高価で、一般の人にさほど馴染みもありませんでした。しかし、施設の管理者は、これらが「物づくり」を劇的に変えることになる、という確信を持ち、自分達が社会に革命を起こすという高揚感に溢れていました。その眩しさに引き寄せられるように、私も木材分野で何か役に立てたらと思ったのです。
体験で私が作成したのは、ラズベリーパイと呼ばれる小型のシングルボードコンピューターを収納する、木製ケースでした。ラズベリーパイは子供の教育用に開発された、基盤やCPU、メモリがむき出しになった、手のひらサイズのパソコンです。電源や通信ケーブルをつなげられるよう、開口部を設けた収納ケースの図面が用意されていて、自分が手書きした絵をスキャナーで取り込み、文字と組み合わせてデザインし、ケースの表面にレーザーで印字することで、オリジナルな製品を作ることができました。
出来上がった作品の可愛らしさに愛着が涌くと同時に、スタッフの「本当はもっと大きな製品を作りたいけど」という一言が耳に飛び込んできました。聞けば、レーザー加工に適した薄い板は、はがき大のものしか手に入らないというのです。大手通販サイトを見ても、当時は確かに掲載されていませんでした。レーザー加工はミリ単位の精度を必要とするので、普通の薄板では反ったり曲がったりし、使えないというのです。
私は、ならばこれまで培った人脈を生かして、私がそれを作れないかと思いました。何人かの製材業者に連絡し、A4サイズの無垢の薄板を作れないかと相談したのです。しかし、誰に聞いても、国産の無垢の薄い板で「反らない・曲がらない」という条件を満たすものを安価に作ることは不可能でした。最終的に、旭川のメーカーからシナの木の合板「シナベニヤ」と、前回も登場した「もくレース」の材料を供給している業者さんから、土佐嶺北杉の集成材の二種類を仕入れることになりました。
A4サイズで1枚800円、送料別という価格にし、ファブラボのHPに掲載してもらいましたが、結論を言えば、実際には全く売れませんでした。そこまで材料にお金をかけて作りたいもの、作りたい人が、当時はまだ存在しなかったのかもしれません。私の突飛な相談に耳を傾け、笑いもせず正しいアドバイスをくれた製材業者の皆様には感謝しかありません。中には、コストで折り合わなかったものの、集成材のサンプルを作って送ってくれた方もいました。
ニーズがあるなら作ってみよう、という挑戦自体は、もちろん決して悪い事ではありません。しかし、世の中にそれを流通させ、ビジネスとして成り立たせることの難しさ、そのために協力を仰いだ多くの事業者さんにおかけした負担を軽んじてはいけない、それを肝に銘じた経験となりました。

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