国産材ビジネスセミナーの合同視察旅行では、日本全国の林業地を訪れました。多くの経験をしましたが、中でも特に印象深かった事をお話しようと思います。
2013年には、飛騨高山を旅しました。ここで知ったのは、飛騨の匠と呼ばれた大工さん達が、その技を全国に広げてきた歴史です。日本の川は、中央の山脈を境に日本海側では南から北、太平洋側では北から南に流れますが、その分水嶺に位置する飛騨ではブナやナラなどの広葉樹と檜などの針葉樹の両方が存在し、それを使いこなす匠の技が発達したそうです。その先祖の心意気を継承しようとするような、若い経営者にも出会いました。その方は最近、高山の豊富な水資源で小水力発電事業を実現されたようです。しかも難しい権利関係の調整や手続きに関するマニュアルをまとめ、他の地域でも活用して欲しいとネット上に公開したのです。そのような姿勢に、私は遠くからエールを送り続けています。
2014年には九州の筑後川流域を訪れました。ここで一番衝撃を受けたのは、九州にはスギの種類が多く、それを選別し、特徴を見極めながら育成・活用していることでした。九州以外の地域では、スギと言えばほぼ一種類で、秋田杉や天竜杉というのはあくまでも産地の名前、杉の種類のことではありません。しかし九州では、有名な飫肥(おび)杉も30以上の細かい種類に分かれています。九州は土壌や日照の関係か他の地域に比べて著しく成長が早いので、種類による形質や成長の仕方の違いが意識され、区別されてきたのでしょう。その中で、名前は忘れましたが、とても心に残った話があります。若木の頃は成長が遅く、劣勢木として間引かれてしまうような存在なのに、30年、50年と経つうちに、銘木と呼ばれるような素晴らしい形質の大木に育つ種類があるというのです。普通の人よりも成長の遅かった自分が、その杉のような性質を持っていたらいいのにと強い憧れを抱きました。
2015年に旅したのは岩手県の岩泉です。岩泉町は、以前もお話したFSC森林認証の取得を推奨し、それを山の管理や町おこしに活用しようとしています。この翌年に台風による水害に見舞われ、私達が巡った場所の多くが被災しましたが、今では龍泉洞も元の美しい姿を取り戻しているようです。SDGsで森林認証が注目されている今、岩泉町の長年にわたる取り組みが、販路の拡大や取引価格の上昇といった形で花開いて欲しいものです。
岩泉の他に、盛岡木材流通センターも見学しました。ナラやクリなどの広葉樹、またアカマツや杉の一大集積地になっていて、全国から業者が買い付けに来るようです。同行していた、島根県の地松を扱う木材業者の方が、同じアカマツでも山陰のものとは表情が違う、無垢な女性のようだと話されていたことが心に残っています。皮付きの丸太の、表皮や木口を見ただけでそのように感じるのは、日頃から松と向き合い、その性質を知り尽くしているからでしょう。
製材業は地域の木材利用の要です。その責任を背にした大阪の研究会メンバーとの旅は、何気ない一言にも気づきを得られる、貴重なものでした。
文月ブログ
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