クラウドファンディングへの出資でご縁が生まれ、西粟倉村へはその後も何度か訪れる機会がありました。中でも印象に残っているのが、村の温泉施設にお湯を供給する、木質バイオマスボイラーを見学したことです。
「西粟倉 森の学校」は、「ユカハリタイル」というオリジナル商品の販売が軌道に乗り、経営の危機を脱して成長期に入っていました。当時、節が少ないA材は製材品に、多少の曲がりなどがあるB材は近隣の合板工場に売り渡していましたが、C材の行き場がないことが悩みだったと聞いています。そんな状況を知って、村で木質バイオマスによる温熱供給事業を行う会社を立ち上げる人が現れたのです。
私は2015年に、ボイラー技士二級の国家資格を取得していました。それは当時、大型バイオマス発電所が各地に認可され始め、このままでは日本の森がはげ山だらけになってしまうという危機感から、ボイラーとは何かについて基礎を学びたかったからです。それを通して知ったことは、木質バイオマスは本来まず温熱利用すべきで、発電に使うのは効率が悪いという事実でした。私の直観は間違っていなかったのです。しかし、FIT制度の拡充に伴って、発電用の大型バイオマス発電所が次々に認可される状況は今も続いています。ほとんどは沿岸部で、海外からヤシ殻(PKS)などを輸入して稼働していますが、コロナや戦争などによる物流の停滞や円安の進行で、それができなくなった時どうなるでしょうか。日本の森が主な燃料となれば、数年ではげ山だらけになることを林野庁にも危惧する方がいました。
木質バイオマスは、発電などではなく、暖房や給湯にまず使うべきものです。周囲の森林の成長量の範囲内で木を伐り出し、製材品や合板に加工できる部分は使い、残りを温熱利用するのが本来の在り方なのです。
西粟倉村では、その会社が薪ボイラーを導入し、間伐で出たC材を薪にして乾燥させ、お湯を沸かして村の温泉施設に供給していました。出力調整のために灯油ボイラーも併用していますが、その使用料は激減し、燃料代が海外に流出せずに村内で循環します。薪はチップやペレットに比べて加工が最も容易ですが、人が手でボイラーに投入しなくてはなりません。私が素晴らしいと思ったのが、その人手に関する考え方でした。
チップやペレットが重宝されるのは、燃料の投入や出力調整が自動化できるからです。特に人件費の高い都市部では、企業は人手を極力省く方向に知恵を絞ります。しかし西粟倉村では、その人手を貴重な雇用機会と捉えていたのです。お年寄りや障害を持った方でも、数時間に一度ここに来て、薪をボイラーにくべる作業を担うことができます。それを伺って、私はこのような考え方こそ、目指すべき自然と人間の共生を導くものだと感じました。
木質バイオマスは、ボイラーの規模や種類も様々で、地域の資源量や供給体制にも左右され、やこれが正解という答えの無い、複雑な事業です。しかし、使い方によっては地域を豊かにする可能性を秘めた技術でもあることを実感した、西粟倉の旅でした。
文月ブログ
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