文月ブログ

林業ビジターエッセイ-山長グループその2「伐採現場」

2022年5月上旬、林業と建築のデジタル化で国産材利用拡大を目指す視察団の一員として、私は羽田からの飛行機で南紀白浜空港に降り立ちました。迎えてくださった山長林業・山長商店の皆様の車に分乗し、空港から比較的近い伐採現場に移動します。
山長グループは、製材・プレカット加工を行う山長商店を中心に、育林・伐採・搬出を行う山長林業、そして建材販売や住宅設計を行うモックといった企業で構成されています。6000ヘクタールもの自社林を保有していますが、伐期を迎えた周囲の山主さんからの依頼もあり、立木を調査して購入し、伐採して製品に加工するというケースも多いそうです。
現場に向かう山道は狭く、クネクネと曲がっていて、木材を満載したトラックが通れるとは思えないほどでしたが、運転してくれたベテラン社員の方は「こんなのは序の口、何でもない」と仰います。車がすれ違える場所は限られていて、しかも途中は携帯電話が繋がらないため、現場から木材を積んで降りてくるトラックとの待ち合わせに時間がかかりました。
紀州の山は急峻で道をつけるのが難しく、ほとんどの場所は架線を張って伐った木材を集めますが、今回の現場は比較的傾斜が緩く、重機で道が作られていました。ただ、伐採された林を横から見ると、細い木が並んでいて、あまり手入れをされていないようです。山長さんの自社林なら、計画的な間伐が行われていると思いますが、他の山主さんから立木を買う場合には、こうした状況は珍しくないのでしょう。
遠くから見ると同じような木が並んでいるように見えても、林内に足を踏み入れると、木は太さも曲がりも様々で、一本として同じものはありません。真っ直ぐに見えても別の角度から見ると曲がっていたり、腐った部分があったり、過去に強風で傷ついていたりと、伐ってみなければ材としての価値はわからないのです。
すれ違った2台のトラックのうち、最初の車には、太くて立派な丸太が積まれていました。それは山長商店の貯木場で仕分けられ、多くは製材品に加工されます。しかし2台目のトラックに積まれていた材は明らかに低質で、製品にならずにバイオマス燃料として引き取られていくものでした。
森の手入れの仕方次第で、その割合は変わっていくでしょう。せっかく先祖が植えて、最初の頃は下刈り(雑草や雑木の除去)などをしたであろう森が、その後放置されたことで価値を大きく下げてしまう、それは日本中の森で起こっていることです。現場を詳しく案内してくださった山長の皆様の話を聞くと、そんな山の材でも、少しでも生かして使おうと、日々努力を重ねていることが伝わってきました。
その土地で生きていく覚悟、それは先祖から受け継いだものを確実に次の世代に引き渡す責任を伴うものです。それを全うしようとする人達への尊敬と同時に、今のままでは目減りするばかりの遺産の価値をどうしたら引き上げられるのか、共に真剣に考えたいという思いが湧いてきました。

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