今年一年を振り返ってみると、椎野ブログ・WOODx研究会の事務局に加え、受託業務ではFSCジャパンの依頼で実施した取材と原稿執筆、FSC認証材供給に関するアンケートの実施、岡山県美作市右手地区の農泊推進事業、埼玉県産木材の供給促進事業、そして自ら企画した林業ICTに関する調査と報告、1月の再造林ツアーに続く12月の森林直販ツアーと、自分なりによく仕事をしたと思う。まだ継続中の業務もあるが、恐らく林業に関心を持った2007年以来初めて、林業・木材産業とそこで働く人にとって本当に役に立つ仕事ができたのではないだろうか。
私が長い低迷から抜け出せたのは、ここ数年、多くの「質の高い」人達に出会い、その考え方や行動に触れて自分を見つめ直したからだ。特に椎野ブログを通じて頻繁にやり取りした東大名誉教授の酒井先生と元林野庁長官の本郷氏は、その深い知識と経験、誠実な仕事と人柄で、私の先入観、甘えや狡さを粉々に砕いて下さった。そして何より、林業・木材産業の現場で働く多くの方の話を聞くうちに、真に努力し、自分や周囲を成長させようとする人と、苦労話や愚痴ばかりで結局は甘えている人の区別がつくようになった事が大きいと思う。「弱者でいる方が楽」、残念ながらそういう人がこの業界にはまだまだ多いと感じる。その一方で、苦しい状況でも下を向かず努力を続ける人にも沢山出会えた。
北海道のある素材生産事業者は、メーカーと交渉し、地形や施業内容に適した機能・出力を持つよう林業機械を改良し続けている。
福島の木工会社社長は、地域の森を守り、県産の木工品を欧米に輸出できるよう、森林組合に働きかけてFSC認証を取得し、更に木質コンビナート構想にも挑んでいる。
栃木県のある製材工場は、だから国産は使えないと言われないよう、多種多様な材を大量に在庫し注文から7日以内に納品する。乾燥技術を磨き、その材は床暖房の家でも狂うことがない。
埼玉のある製材工場は、材料あっての商売だと自ら山林経営に取り組む。山からは様々な材が出るので、生産は非効率にならざるを得ないが、小ロットや特殊な注文にもきめ細かく対応することで顧客の信頼を得、山で働く人の待遇を上げようと苦心している。
宮崎県のある森林組合では、周囲で進む伐採のスピードに再造林が追いつかず、再び繁った雑草を刈って地拵えをする。高性能林業機械で年収数千万円を稼ぐ人達の影に、自分達がやるしかないのだと、真面目に黙々と作業を続ける人々がいる。
山で働く、あるいは木材を扱う人達全てが、その努力に相応しい処遇と尊厳を得られるようになって欲しい。そうすれば日本の森は、これから生まれて来る子供達を育むゆりかごになる。私にできるのは、状況を良く見て分析し、森林と建築を結ぶ技術を山の人々が使えるよう橋渡しをすることだと思う。この一年にしてきた事の先には森林直販の実現が待っている。山で働く人達が諦めずに希望を持てるように、建築に革命的な変化をもたらす技術の開発者達が森に視線を向けてくれるように、来年も言葉を紡いでいこう。
文月ブログ
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