文月ブログ

WOODx研究会に見る森林と建築の関係の変化

WOODx研究会は2022年10月1日に発足した任意団体で、ほぼ月に一回のペースで開催する会議は8月で31回を数える。大手ゼネコンが提供する、末尾が大文字のWOODXというアプリがあるようだが、それとはまったく無関係の別組織だ。
会則には、「本会は、オープンイノベーションにより、国産材利用の中心となる建築用製材の、川上(育林)から川中(製材・加工)、川下(設計・施工)までのサプライチェーンの連携・再構築に関する活動(事業)を行うことにより、健全で持続可能な森林経営に基づく木造建築生産の合理化を実現することを目的とする」とある。
代表はウッドステーション(以下WS)会長の塩地氏、副代表は東京都市大学建築都市デザイン学部長の小見康夫先生という体制からもわかるように、建築側の人々が日本の森林・林業の現状を憂い、その再生と併せて木造建築生産の合理化という課題に取り組むという色合いが強い。もちろん、山側の当事者の意見を反映することは欠かせないので、賛助会員には佐伯広域森林組合の他、中国木材、山長商店、森林信託に取り組む三井住友信託銀行なども名を連ねている。
発足当初は、森林資源情報と建築図書の連携に着目し、リモートセンシング技術で定評のあった信州大学の研究室とのコラボレーションが重要なテーマとなった。WSは早稲田大学の建築課とも連携し、北信州のカラマツ林でドローン計測された立木と設計図書をマッチングさせて松本市内に家を建てるという世界初の試みを成功させた。
更にWSは2023年6月、2×4建築資材製造のウイングが佐伯広域森林組合から再造林費用を乗せた単価で製材品を購入するという「再造林協定」の締結を仲介した。同年秋、塩地氏は災害用住宅備蓄を提唱する立教大学の長坂先生に出会い、年末には木造モバイル建築の実証実験を行う事を合意した。すると翌年の1月1日、能登半島地震が起きて、従来の方法では大規模災害時の住宅供給が全く進まないことが明らかになり、実験したばかりのモバイルユニットを使った住宅が能登で本設に転換できる応急仮設として採用されることになった。こうした動きの背後に、WOODx研究会で交わされる議論や直接の交流が大きな役割を果たしてきたことは間違いないと思う。
最近では、代表・副代表以外の参加メンバーは大きく入れ替わり、元林野庁長官や、森林の価値を算出するモデルを作ろうと試みる会計学の教授、役所をやめて造林会社を立ち上げた起業家など、多岐にわたる人々が関わっている。そして取り上げられる議題は、人工知能を使い、専門家でなくても建築を手掛けられる仕組みの開発などに移っている。それは山側が建築と対等な立場を得る手段になっていくだろう。
発足から3年が経つ間に、森林は建築側にとって、「同情し手助けしなくてはいけない存在」から、「うまく活用しなければ自らの生き残りに関わる」存在に変ってきたと思う。
WOODx研究会は、建築の専門家が中心となって運営しながら、極端に言えば建築から専門家を排除する仕組みを議論している。何のための建築なのか、森林が守られずして人の暮らしが続くのか、そういう根本的な問いに立脚しているので、保身に走る人はいつしか消えていく。
「健全で持続可能な森林経営に基づく木造建築生産の合理化」を目指す研究会は、今後も地味な活動によって、溢れる緑と安全で快適な家に続く道を地ならししていくだろう。

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