地形、地質、水路などの農業施設、消火栓の位置など、「人々が山村で生きていくために必要な情報」の共有と伝達を支援する、そのための地図を作っていますとその人は語った。戸田堅一郎氏、元長野県職員で、航空レーザデータの標高値から傾斜角と曲率を計算し、異なる色調で重ね合わせて地形判読を用意にした「CS立体図」を開発された方だ。今は役所を辞めてジオフォレストという会社を設立し、冒頭で述べたような地図を作る仕事をしている。山村地域では人口が減り、インフラ維持やルールの基盤となる情報を30代~50代に引き継ぎたくても、バラバラで不十分な紙の図面しか残っていないことが多い。それをデジタル化し、わかりやすい表示にして住民が共有できる地図にする、尊い仕事だと思う。
昔は林道の開削や木材の強度試験にも携わっていた戸田さんは、今の林業政策に根本的な疑問を抱いている。国土の7割が森林、そのうちの4割が人工林、つまり国土の約3割の森を人がお金をかけて育ててきた、それはすごいことだ。しかし、1ヘクタールの立木の値段が150万円だとして、再造林には200万円かかるのが現実、更に伐って運び出すのに400万円かかる場合もある。これを税金で穴埋めしながら続けることが可能なのか、正しいのか。欧米では再造林のコストが10万円という地域もあるようだ。しかし日本の地質・気候ではそこまで下げるのは難しい。だからと言って、国土の3割を占める人工林の活用を諦めるのも違う。彼の出した結論は、「林業をする場所としない場所を決める」というものだった。
樹木の成長に適した土壌と日射、付けた道が崩れにくく、災害のリスクが低い、搬出も容易な場所を経済林として維持・経営していく。少なくとも、災害を起こす危険の高い場所には手をつけない。一見、国が勧めるゾーニングと同じかと思うが、彼は役所が一方的に決めて押し付ける方法などうまくいくはずがないと言う。
CS立体図には、地滑りの跡や水の集まりやすい場所などがはっきり示される。道を付ける場合にも、単に等高線に沿うだけでなく、そのような場所を考慮した計画が必要だ。森林所有者、住民、林業事業体、行政、それらの人々が、地形や地質、過去の災害、現在の樹種、道の入り方、そういったことを理解しながら、納得して土地利用を決めていく、そのための道具がGISなのだと言う。
現実には、そのような取り組みは夢のまた夢かもしれない。しかし、先日訪れた熊本県の人吉・球磨地域では、豪雨災害を受けた河川の復旧工事が続く中、その上流では、将来の災害を招きかねない100ヘクタール規模の大規模伐採地が、5年経っても復元の見込みのない無残な姿を晒している。(写真はその一部)地域の人々が現在の航空写真を目にしたら、不安な気持ちを抱かずにはいられないだろう。
山村で人々が暮らし続けていくために、一定の木を伐って植え替え、森林を更新していくことはとても重要だ。そして若木が成長する様子を目にするのは、周辺に住む人々に、木が伐られてもまた植えられて森が蘇るという信頼感、その地域の暮らしが続いていく安心感をもたらすだろう。そんな林業を実行する上で、人々の意思決定を支援する道具、頼りになる相棒としてGISを使っていく意義を教えて頂いた。
文月ブログ
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