文月ブログ

日本の林業とFSCの過去と未来

2024年11月29日、赤坂でFSCの創立30周年記念イベントが開催された。2012年から今年の9月までFSCの事務局長を務めたキム・カールステンセン氏が挨拶され、パネルディスカッションにも参加されたので、参加者には同時通訳の受信機が配られた。FSC設立の経緯が当時の関係者からビデオメッセージで語られ、日本のFSCを牽引し支えてきた製紙業界とそのユーザーの取り組み、日本の林業界での現状などがそれぞれパネルディスカッションで議論される中、私はある一つの確信を得た。
それは、日本でFM(認証林)が広がらないのは、林業が産業として自立していないからだ、ということだ。製紙業界は過去、世界的な環境意識の高まりの中で森林破壊の加担者と見なされ、どうすればビジネスと持続可能な森林伐採を両立させるかに必死で取り組んできた。王子製紙は日本で初めてFSCマークのついたトイレットペーパーやティッシュを販売したが、長いサプライチェーンにおいて最終製品まで認証をつなぐためのコストを回収できるのか、社内では相当の議論や調整が必要だったと聞く。その努力は世界各国の原料調達先に及び、例えばベトナムでは小規模な数百の事業者がグループ認証を取得・維持できるよう支援をしたり、伐期を延ばすために収入の無い期間を支える商品開発を行ったりと、地道な取り組みを実践し続けたそうだ。最近では、食品のパッケージや文房具、衣料品のタグに至るまで、FSCマークは広く使われ珍しいものではなくなっている。しかし、王子製紙の担当者は、商品を手に取ってマークを目にした時、それがいかに多くの生産者・加工・流通事業者の誠実な努力の結果なのかに思いを馳せて欲しいと語った。
日本の林業は、最終消費者に接していない。
住宅産業はクレーム産業だと良く聞くが、その苦労は工務店やハウスメーカーに負わせ、ほとんどの林業事業者はひたすら木を育て、伐って市場に出すだけだ。川下の事業者も心得たもので、施主にいくらで売っているかを隠して、川上からは買い叩く。外材に納期や品質で適わず、伐っても赤字になるからと補助金で補填してもらう。そんな状況では、持続可能な森林経営を実施し、それを第三者に審査してもらおうという自己への厳しさなど生まれないだろう。
日本で最初にFSCを取得した速水林業の速水社長はこう言った。「FSCは、自分達の森林経営が世界基準の中でどのポジションにあるのかを知る有効な手掛かりだ。SGECなら金がかからない、などと言う人はそれで満足していればいい。」
懇親会の席でカールステンセン氏に挨拶した時、日本の特殊な状況に対してどうすればいいと思うか?と聞かれ(もちろん通訳を介して)、私は即座にこう答えた。「森林と建築の距離を縮めることです。」その直後に彼が主催者に呼ばれてしまったので、私の言葉に対する彼の反応はわからない。しかし、生産地と消費地が近接する日本において、森林の価値を上げるにはそれが最も良い方法だと私は考える。FSCのブランド化で長いサプライチェーンにかかるコストを賄うのではなく、より良い森林管理の手法としてFSCを活用し、地元の木材需要を賄うべきではないだろうか。私はその実践者を探し、応援していきたい。

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