先日、林業関係者をモックの北千葉工場にお連れした。この工場の視察を希望するのは建築業界の人が多かったが、先月は林野庁や県の林業職の方々が来られたし、今回も一人は森林組合、もう一人は地域材の活用や林業・木材業の振興に取り組む方だ。お二人とも、林業だけでなく、金額的に最も大きな用途である建築についても一定の知識や関心を持っておられることが、質問の鋭さから伝わってくる。
よく川上(林業・素材生産)、川中(木材加工・流通)、川下(木材利用・建築)と言うように、木材は山から最終消費者まで届く間に介在する事業者が多く、運ばれる距離も長い。それが山に再造林可能な利益を還せない大きな原因の一つだとして、川上と川下をつなぐ取り組みに多くの人が挑戦している。あるいはまた、収益力の高い建材メーカーや住宅産業から一定の資金を得てプールし、再造林費用に充てようという構想もあると聞く。それらはいずれも、川上・川中・川下が別々の存在であり、今の生産・流通構造が変わらないという前提に立っている。いや中には変えたくないという意識の人々さえいるだろう。
木造大型パネルの技術と、ウッドステーションが開発中の概算見積もりAIは、川上と川下を融合させる。概算AIで瞬時に提示される建築部材は、今はまだ全国に展開する大手企業の製品だが、数年以内には地域材のデータが搭載され、建築予定地に供給可能な木材が表示されて、それを施主や設計士が選べるようになるはずだ。概算AIがインフラになるにつれ、3か月前に選択された見積もりのデータから、その内の何割が発注につながるという数字がはじき出せるようになる。その時、山の人々が自前で製材所と大型パネル工場を持ち、地域の木材需要と地域の材を最短で結び、高い付加価値を源泉に原木を高く仕入れる、つまり山に再造林が可能な利益を還すことが可能になる。
先日の訪問者はこう言っていた。住宅着工戸数が減ることが問題なのではなく、住宅需要を地域の材とマッチングできていないことが課題なのだと。山側がそれを理解し、殻を破って次のステージへと変態していく、それを助ける技術が大型パネルと概算AIだということを、今回の視察で十分納得頂けたと思う。
AIには、開発者の理想や意思が散りばめられている。山に留まるな、生活者の足元まで降りて来い。工務店と競合する必要は無く、強力なパートナーになればいい。そのための道具として自分を使って欲しい。開発者の祖父が孫に託した山への思いは、AIをとおして山に呼びかけているようだ。
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