大分県の佐伯市周辺には、樹皮(バーク)を専門に扱う事業者が4社ある。昔より減ったそうだが、樹皮だけを引き取って加工する会社が存在すること自体、この地域の木材生産量がどれほど大きいかを示している。今回、その中の一社を始めて訪問した。
バークは産業廃棄物扱いで、以前は無料で引き取ってくれたが、最近は有料になったという。電力料金や運送費の値上がりなど、無料では採算が取れなくなってきたのだろう。今回訪問したのは、これまで県外から購入していた苗木の培養土を地元で作れないかと、この会社が取り組んでくれているからだ。
敷地内にうず高く積まれたバークの山は、鶏糞やおからなど様々な原料を加え、切り返しと言って、定期的に重機で攪拌する。そうして12ヶ月から18ヶ月をかけ、発酵が進むほど山は黒く変色し、熟成バーク堆肥に変っていく。そのバークにどんな原料をどのような割合で配合すれば、苗木の生育に適した培養土になるのか、この会社と森林組合のそれぞれの担当者は、10種類以上の配合を試してきて、ようやく希望に沿った土に近づきつつあるらしい。ここで佐伯の木材の樹皮から苗木の培養土を作ることができれば、正に命の循環が実現し、これまで県外に流出していたお金が地元に落ちることにもなる。量はさほど多くないとは言え、双方にとって意義深い取り組みに違いない。
私達は次の視察先に向かうため、20分ほどでその会社を後にしたが、到着してすぐに工場の技術者に手渡された、分厚い紙の資料には驚いた。30枚近いA4のコピー用紙をクリップで留めたもので、正直なところ、こんな専門的な資料をもらっても・・・と感じたのだ。しかし、その技術者の目が何かを訴えているようで、私は帰宅後に目を通すことにし、そしてページをめくるうちに、思わず目に涙が浮かんできた。
それは彼らの主力商品であるビタソイルという堆肥の、JAS認定の更新申請のための資材リストだった。佐伯広域森林組合の針葉樹皮、養鶏業者からの鶏糞、焼酎の醸造過程で出た蒸留かす、野菜水煮の製造過程の食品残渣、豆腐製造工場のおから、そして海藻の加工過程で出た乾燥藻や粉末などだ。その全てに、製造工程の説明と共に、天然物質由来であること、消臭剤などの化学薬品を使っていない、遺伝子組み換え食品を餌として摂取させていない、科学的処理を行っていない、科学的に合成された物質などを一切使っていない、という各社の証明書が付いている。
あの男性が訴えたかったのはこれだったのか、と思った。彼らの仕事は、地域の一次産業や食品製造業を、廃棄物処理という形で下支えしているのだ。使う原料は、食べ物を育てる畑に蒔くために、厳しい規制に適合したものを選び抜いている。一方で、主原料の樹皮の入手は益々難しくなっていくだろう。近隣にバイオマス発電所が3か所あり、競合のために燃料の買い取り価格が上がると、製材せずにチップにして持ち込む方が儲かるケースが出てくる。更に、円安傾向が続くと原木の輸出が増えて、これもバークの減少につながる。
地域の産業が生み出す残滓を混ぜ合わせ、有効な成分を醸成するための技術を磨き、手間と時間をかけて堆肥に変えることは、利益が上がるからと燃料にして燃やすのより遥かに尊い。できた堆肥は地域の農業で使われ、瑞々しい野菜や果物を生み出す。更にこの先は、杉の苗木の伸びた根に掴まれて、山に還っていくだろう。
物質の循環、命の輝きと再生。佐伯にはその輪を回そうとする人が大勢いて、互いに結びついている。山腹に広がる、全国に類を見ない多くの再造林地は、そんな人々の思いを乗せた、未来への箱舟なのだと思う。
文月ブログ
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