文月ブログ

過去の経験を翼に

翼の右側に緑、左側に赤の航空灯、機体の左側から乗り降りすること、これらはみな、船舶の安全な航行のために作られたルールを航空業界が引き継いだものだ。恐らく数えきれない数の事故の教訓から、衝突を避け、港への出入りや着岸をスムーズに行うために世界共通のルールとして定着した事項に、高い有用性を認めたのだろう。
過去には、機長にしか脱出許可を出す権限が無かったり、座席のシートに燃えると有毒ガスが出る素材が使われていたりして、多くの乗客が命を落とす事故があった。今では客室乗務員の判断で乗客を脱出させられるし、シートには燃えても有害なガスを出さない素材を使用することが義務付けられている。航空業界は過去の出来事から学び、確実に安全性を向上させてきた。今回の事故についても、きっとその回避手段が一般化されていくだろう。
災害対応も、依頼を待たないプッシュ型の支援、避難所の開設や運営方法などには、阪神淡路大震災以来、積み重ねてきたノウハウが生きていると思う。インタビューに答える避難所施設長の胸に張られた布には、困り事何でも相談くださいという文字の下に、英語でも同じ意味の表記があった。聾者や外国人への配慮がされていることがうかがえる。
ならばこの先に必要な仮設住宅には、過去の教訓が生かされるだろうか。東日本大震災の後には、物置と変わらないペラペラな素材の仮設が多く建てられた。何か月も待たされてやっと入居したその家は、熱が逃げるので、どんなにストーブを焚いても部屋は温まらない。薄いサッシの内側は結露でビッショリ、床の絨毯をめくると一面の黒カビ、という酷い状態だったと聞く。夏は逆で、うだるような暑さに悩まされる。二次災害と言ってもいい事実を私がまるで知らなかったのは、多くの被災者が文句を言わずに耐え忍んできたからだろう。
この状況に憤り、質の良い応急仮設の開発に取り組んできたのが立教大学の長坂先生だ。日本モバイル建築協会(https://mobakyo.or.jp/)を設立し、安全で快適な、いざという時に移築できる建物を日頃から備蓄しようと呼びかけている。
国産材業界からは、人手不足や住宅の着工件数減少で先行きを危ぶむ声が聞こえる。それにも関わらず、政府は花粉症対策のために伐採量を増やすような施策を打ち出し、価格の暴落が懸念される状況だ。何をすべきなのか、誰の目にも明らかではないだろうか。
国産材を使い、大型パネルで一気に組み上げる高品質でコンパクトな箱、それを全国の工場で生産し、被災地に運ぶことが、寒さに震え、人目を気にしながら生活する多くの人々を救う最良の方法だと思う。移築できるので、街並みの再建を邪魔することもない。そのためには、林業・製材・プレカット・建築の各機能が近接し、データ連携する「林産クラスター」を構築することが一番の近道だ。このプロジェクトのテイクオフが、日本の林業にも翼を与えるきっかけになることを強く願う。

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