文月ブログ

九州に杉の品種が多い理由

九州には杉の品種が多い、本州では杉はほぼ一括りにされていて、秋田杉とか天竜杉とか言われるのは産地の名前だ。その地に適して成長が良く、材質も優れたものが選ばれてきたのだとすれば、他の地域の杉とは遺伝的性質も違っているだろう。少花粉杉を含め、その土地ごとに合う品種を提供しようする苗木業者さんは、もちろん各地で努力されている。
しかし九州の場合は比較にならない数の品種があり、その中から何を選んで植えるかという事が、育林の手間や収穫の多寡、材の評価に直結する。同じ種類ばかりを植えるのは、病気や虫への耐性を考えるとリスクが高いので、例えばある森林組合では、収穫時の色味や木目の出方が近い4種類の苗木を植えている。そうすることで、製材した時の材の見た目が揃いやすく、そうでない場合より高く売れることを期待するからだ。
なぜ九州だけが突出して杉の品種に拘るのだろう。理由の一つは、やはり樹木の成長の早さではないだろうか。自然の状態での新品種の出現は、遺伝子のコピーミスや、感染した病原菌から偶然生き残った、という滅多にない出来事の連鎖で起こる。けれど、私達がコロナウイルス変異種の出現スピードに脅かされたように、数千万~数兆という莫大な母数のもとでは、意外に早く進むものだとも言える。九州のような杉の成長の早い地域では、そうして生まれた新しい品種を区別し易く、短期間でその形質を見極めることができただろう。
杉の苗木は、若い枝の先(穂)を採取して育てる。だから母樹は沢山の穂を採れるように、低い位置で枝分かれさせた丸い樹形をしていて、ぱっと見では杉だとわからないほどだ。先人達の注意深い目と、丁寧な保育を経て選ばれた杉の若木は、秋雨も糧にしながら、また次の世代に向けて大きく育っていくだろう。

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