古いものを愛でる。長い時間を経たものに価値を見出す。そこには、一時期人々に忘れ去られ、ある時タイムカプセルのように目の前に現れたものを発見する、という経過が潜んでいることが多い。
世界遺産の岩見銀山に近い、島根県大森町がテレビで取り上げられていた。100年前に銀山が閉山してから、町はゴーストタウンと化していたが、1969年に石見銀山が国の史跡となり、1987年に街並みが重要伝統的建造物群保存地区に選定、2007年に石見銀山と併せて世界遺産に登録された。江戸時代の武家屋敷などを含む多くの木造建築がリニューアルされ、レトロでクールな地域として人気が高まっている。2016年にここを訪れた時、古今の空気が混ざり合った不思議な風が吹いていると感じたことを思い出す。
もしそこに人々が住み続けていたら、老朽化や近代的な設備への欲求から家を建て替える人が増えていき、古い町並みはとっくに姿を消していただろう。博物館に飾られるような古い道具や民芸品も、保管していた人にとっては長い間場所塞ぎのお荷物で、廃棄を免れたのは偶然だったかもしれない。忘れられていたから残った、という事例は少なくないだろう。
そして、大森町の木造建築が、しっかりした作りであったことも大きな要素であろうと思う。石見銀山に続く道沿いで、冬は積雪もあり、相応の資金と資材で建てられたのだろう。でなければリニューアルに耐えられる躯体が100年も残るとは考えにくい。
昔の立派な木造建築には人の一生を軽々と超えていく力がある。そこに込められた知恵、そして木材の持つ時間への耐性を再発見し、最新の建築に生かして欲しいと思う。
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