文月ブログ

山で働く人の笑顔で育つもの

山で働くことが楽しい、そう急傾斜地の現場で話す男性の動画を見た。新人採用のために制作されたビデオだから良い面が強調されているのは当然だが、登場する先輩の姿も含め、そこには力みのない自然な笑みがあった。
私が林業に興味を持った15~6年前は、作業班の古株が現場でヘルメットをつけないので自分も被りにくいとか、前掛け式の防刃装具や、耳を騒音から守るイヤマフも珍しい時代だった。チェーンソープロテクターのついた安全装備が義務化されたのはずっと後になってからだ。当時から林業の労災率は極めて高く、亡くなる人や怪我をする人が身近にいるのに、安全に対する意識が低いことに驚いた。高速回転する刃物を足場の悪い傾斜地で使うこと、木は見た目の重心から判断する方向に倒れない場合があることなど、わずかな油断が死傷事故につながる要因はいくつもある。そんな危険な労働なのに、不安定な日給制で賃金が低い。新規就労した人が、将来性が無いから今月で辞めます、と話すのを直に聞いたこともあった。
現在は状況が大きく改善している。昔は憧れても手が出ないと言われていた外国製の装備は普通になり、月給制の採用も増えているようだ。何より、衰退産業と言われていた林業が、カーボンニュートラルを支える産業として期待されるようになったのは大きな違いだと思う。しかし、未だに林業の労災率は高いままだ。労働者1000人当たりの年間の死傷者数は全産業平均の10倍近い。余裕を持った生産計画や、携帯の電波がつながらない山奥での事故への対処など、課題は多いと聞く。
山で働く人達に、毎日無事に帰ってきて欲しい。人の足跡、人の声、巻き付いたツルを切る手、彼らの笑顔を糧にして山は育つのだと思う。

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