再造林費用を上乗せした価格で年間10,000立法メートル以上の製材品を買ってもらう、これは一見、佐伯広域森林組合(以下佐伯森林)にとって良い事ずくめのように思えます。これまでも既に100%再造林を実施しているのですから、今のままで製品価格を引き上げてもらえるなら、こんなにありがたい話はありません。しかし、実際はそう簡単なことではないのです。
佐伯森林の現在の製材品生産量は年間約5万立法メートルです。そこに1万立法メートルを上乗せするには、現在自社工場で使わず共販所(原木市場)で他社に販売している丸太を使い、2×4(ツーバイフォー)用の柱を作る必要があります。しかし、その丸太は在来木造用に3メートルや4メートルに切られたものですから、2×4の規格、2.5メートルで切れば無駄な部分が多く残ってしまいます。そこで、佐伯森林は宇目工場の敷地内に新たな建屋を作り、「フィンガージョイント」という、短い木材を接着材で継ぎ足して長い柱を作る加工機を導入することにしました。それを必要な長さに切って製品にしていく方法は、既にウイング株式会社(以下ウイング)に国産の2×4材を供給している事業者が採用しているものです。建物の上屋と機械設備を合わせた投資額は約17億円、佐伯市を通じて国に補助金を申請するとしても、相当な金額を自己負担しなくてはなりません。
更に、2×4の場合、建材は全てJAS認定を取得する必要があり、ウイングが求める安定した品質を実現できるのかも大きな課題です。新しいラインで働く人手の確保も必要になるでしょう。それでも、これまで自社で使えず割安で販売していた大径材から価格を約束された製品を生み出せるなら、挑戦する価値は十分にある、佐伯森林の人々はそう考えたのだと思います。
これまで、山側は伐った木を誰がどう使うのかを知らず、建築側は木材がただ安ければ良く、伐採跡地に再造林がなされているかなど全く気にかけませんでした。今回の協定は、お互いが相手をとことん理解し、一方で互いの要望をぶつけ合い、それを叶える努力をするという約束です。それは両者がその過程で幸福を追求しつつ、再造林をとおして「未来の森林」という子供を産み育てる行為なのかもしれません。一つだけ通常の結婚と違うのは、このような関係はウイングと佐伯森林の間に限定されるものではなく、成功すれば互いに他のパートナーを増やしていけることです。
協定を見守り支援する佐伯市とウッドステーション株式会社は、この婚姻の介添人としてだけでなく、情報発信や物流の改革支援など、より積極的な役割を果たしていくことになるでしょう。
今回の協定が、国産材には「再造林」あるいは「持続可能な森林経営」を担保されたものと、そうでないものがある、その認識を広めるきっかけになればいい、次回はそれについてお話します。
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