文月ブログ

森と生きるために-西粟倉でのフォレスターギャザリング①

2022年10月8日~9日、岡山県の西粟倉村で開催された「フォレスターギャザリング2022」に参加しました。この集いは「日本型フォレスターの相互交流のためのプラットフォーム」で、2015年から毎年、場所を変えて実施されています。(2020・2021はコロナによりオンライン開催)森林管理を仕事にしているプロだけでなく、研究者や私のような民間企業の人間など、森林管理について学びたい人なら誰でも参加可能です。

今年は岐阜・長野・高知・徳島・兵庫ほか、各地から16名が参加し、現地で山林の管理や活用に取り組む株式会社百森(ひゃくもり)株式会社百森 (hyakumori.com) スタッフの方達の案内で、ゾーニングの現状を聞き、村内の現場や施設を見学しました。

最初に西粟倉村の森林とその現状について説明を聞いた後、S林業さんが作成したというゾーニング図を見せて頂きました。短伐期・長伐期・施業留意など7種類くらいに細かく色分けされていますが、実際に施業する側からすると、ここまで細かい情報はあっても使いにくいそうです。他に、循環生産林評価点という、地位や傾斜、道からの距離などの指標から導いた点数で色分けしたマップもあり、この方が比較的現状にマッチしているとのことでした。それでも、実際の施業地や方法などを決める際には、現地での調査が欠かせないそうです。

今回のゲスト講師は、岐阜県立森林文化アカデミーの特任教授で、造林技術研究所の横井秀一氏でした。長年、森林管理や森林更新技術の研究・人材育成に取り組まれていて、静かな口調ながらとても説得力のあるお話を伺いました。皆伐地で天然更新が予定されている場所を見るなり、横井氏は「恐らく無理でしょう」と言われます。育って欲しい稚樹が見当たらないというのがその理由でした。皆伐後の更地に、その後残したい樹種が生えてくる可能性は一年目が最も高く、二年後・三年後には下がり続けるそうです。そもそも、下層植生に稚樹が見当たらなければその木は生えない、だから伐採前に確認しなくてはいけないそうです。森林の9割が杉・檜という一斉林のため、近くに母樹がなければ広葉樹が自然に芽生えることは期待できません。またこの地でも鹿の食害は酷く、柵で囲わない場所は草も稚樹も全て食べられてしまいます。主催者の一人である岐阜県職員のN氏も、天然更新と言うとなぜか思考停止してしまう人が多い。実際は難しいのだから、伐る前によく考えて欲しいと言っていました。

寒風に晒される現場は花崗岩が風化したまさ土で、安定性が低く崩れやすいため、この場所を皆伐して本当に良かったのか、天然更新の見込みが無いとしたら何を植えるのか、水抜きのヒューム管がどの程度持ちそうかなど、現場に携わる人々の議論は延々と続きました。専門家の厳しい指摘を受けても、百森のスタッフは挫けません。自分達がやってみて、例え失敗したとしても、それが次の挑戦の、あるいは他地域の参考になればいいと話す姿は、この地に根付こうとする実生の若木を思わせます。山づくりの難しさと奥の深さを改めて実感すると共に、この厳しさを理解しないまま、都市の木造化に走ろうとする建築業界との認識のギャップを埋めるのが、自分の仕事なのだと胸に刻んだ現場見学でした。

次回に続きます。

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