文月ブログ

森と生きるために-信州大学訪問①

2022年7月下旬、私は長野県伊那市にある信州大学農学部のキャンパスを訪れました。テレビ局が制作する番組のため、ウッドステーションの塩地会長が信州大学の加藤正人先生を訪ねる形で、その研究を取り上げる取材に同行したのです。農学部のキャンパスは、中央道の伊那インターを降りたすぐそばにあります。乗用車で通学する学生も多いようで、広い駐車場には北海道や九州など、全国各地のナンバーをつけた車が停まっていました。加藤先生の研究室は、アカマツなど背の高い樹木に囲まれた白い建物の一階でした。先生は、ドローンによる森林の精密な計測で、世界のトップ5に入るという成果を上げている方です。しかも、大手銀行からの出資を得て自ら会社を興し、研究室の卒業生にこの技術を使って働ける場を提供するという、単なる研究者の枠を超えた存在でもあります。
テレビ局のディレクターは、日本には木材資源が沢山あるのに、なぜウッドショックが起きたのか、それを二度と起こさないためには何をすればいいのか、そんな視点の番組を作ろうとしているようでした。先にウッドステーションのオフィスを取材した際にも感じましたが、丁寧に、執拗なほどの質問を繰り返し、映像も様々な角度から何度も撮り直します。この日は特に、ドローンの飛行場、その離発着、見上げる関係者、演習林上空の飛行、それを建物の屋上から見たところ、撮った画像の様子、それについての説明、地上レーザー装置による林内の計測、そういった多くの場面を撮っていくので、けた違いの時間がかかりました。朝9時過ぎに着いてから14時過ぎまで、私達は昼食をとりましたが、取材スタッフは昼どころか休憩もなく、ぶっ通しで取材を続けていました。更に、いかに絵として見栄えが良くても、普段やらない行動はNGなど、番組の信頼性に関わることには一切妥協しない姿勢が印象的でした。
そんな彼らの情熱に応えようと、塩地会長と加藤先生も倦むことなく撮影に臨みます。説明にあたり、ディレクターの要望は、「中学生にもわかる言葉で」というものでした。予定している番組の視聴者は、学ぶことを目的に見ている訳ではありません。家事や食事をしながら、スマホを覗きながら眺めているテレビで、難解な言葉が出てくると、視聴者は離れてしまうというのです。これまで社内や学内で、難解で高尚な言葉を駆使して成功してきたお二人にとって、これは非常に難しいことだったそうです。例えば「マッチング」という言葉を使わずに説明するため、「必要な人に届ける」といった、全く違う言い回しを考えなくてはなりませんでした。そんな苦労を乗り越え、天気も味方して、撮影は無事に終了しました。
加藤先生が興した会社は、「精密林業計測株式会社」と言う、そのものズバリの名前です。トータルで一機2000万円もする、高性能レーザーセンサーを搭載したドローンを保有し、1haあたり15分程度の飛行で取得したデータを、独自に開発した技術で解析します。すると、CTスキャンのような森林の高精細な画像と、樹種・樹高・太さなどの詳細な情報が取得できるのです。人が簡単に立ち入ることのできない場所でも精密な計測ができ、資源量の把握が可能になる、それは素晴らしいことなのですが、残念ながら今はまだその価値が十分に活用されているとは言い難いのが実情です。その理由と、ではこれから何をするべきなのかについて、明日またお話しましょう。

(写真提供:高橋幸司)

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