文月ブログ

森林直販の類型

先端技術を活用して森林資源と建築を直結させ、地域の木造需要を地域材で賄う。産業と言える一定の規模を持ち、地域の経済を潤すと共にその地域の森林が健全に保たれる状況を作る。それが私の考える森林直販だ。今はまだ、これこそ森林直販だと思える事例に出会っていないが、近いところまで来ている例は沢山ある。今回はそのうちの幾つかを紹介しようと思う。
大企業では、鹿児島県姶良市のMECインダストリーがあげられる。近隣から大径材を集めてCLTを作り、工場内でそれを使った住宅を組み上げて販売している。モデルによっては1,000万円前後と破格の値段だが、輸送の問題で現時点での供給先は鹿児島・宮崎・熊本に限られるようだ。大規模工場で原木から住宅生産までの一気通貫により価格を下げた点は森林直販に違いないのだが、販売棟数を伸ばすのは簡単ではないと聞く。できることなら、買い集める木材の伐採跡地がどうなっているのかについても、関心を持ってもらえたらと思う。
同じ九州の佐伯広域森林組合は、運営する在来向けの製材工場に加え、大径材の活用法として2×4のスタッドを生産するフィンガージョイントのライン用に、3棟の工場建屋をゼネコンに頼らず自力で建設した。彼らは毎年350㏊の再造林をやり続け、ここ10年の実績で見ると、大分県の再造林面積の50%が佐伯で行われている。人工林の活用と更新を愚直にやりながら、建築の領域にまで足を踏み入れているのは素晴らしいことだ。願わくは、自社工場に留まらず、今回得た知識や育った人材を活かして、地域の木造の受注・供給にまで進んで欲しい。
兵庫県丹波市のNPO法人サウンドウッズは、木材コーディネイターという、林業と建築業の通訳者のような人材を育成している。その主催者が経営する有限会社ウッズは、地元の人々が共同所有する山林の管理を受託しながら、その資源状況を詳細に調べ上げ、経営者の一人が設計する住宅の図面から逆算して造材・製材・乾燥まで自社で行い、住宅を建てている。正に森林直販を実行しているのだが、設計のプロ、製材のプロがいてこそ実現できている業態で、普通の人が真似をするのは難しい。施工は大工さんが行う従来の方式のため、年間に建てられる棟数は5~10棟程度のようだが、材の引き合いも多く、住宅建築のサプライチェーンを一定の地域内で最適化した好例だと思う。
栃木県佐野市の渡良瀬林産は2016年に設立された若い会社で、親会社は地域の住宅ビルダーだ。福祉施設も経営する会長が、入所者から山林に関する悩みを聞き、それを解決する事業をやれと無茶振りされた従業員が、泣く泣く全国の製材所を見て回り、どんな規模でどうやったら成り立つのかを計算し尽くして工場を新設したのだそうだ。同時に渡良瀬森林開発という会社も作り、一般の人々から山(1㏊以上の人工林)を買い付けて管理もしている。住宅建築の工業化にまでは進んでいないが、地域に貢献する立派な会社だと思う。
上記の4例は出資者も担い手も規模もバラバラだが、地域の森林を活かすという点では共通している。ただ、大隅半島などで、このままでは10年後に伐れる木が無くなると危惧する人もいて、巨大資本を投下した事業には脆弱性が付きまとう。その点、佐伯を始め、「森を守りたい」という人の願いが起点になった事業には、担う人が代わっても受け継がれていくだろう強靭さがある。更に今後は、大きな資本が無くても、専門家がいなくても、地域の暮らしを守りたい普通の人々が森林を活かして利益を得るための道具、建築AIが登場し、木造大型パネルと共に普及していく。今が大きな変革の前夜だったと振り返る時が来ることを信じて、発信を続けていこう。
(写真は渡良瀬林産の工場。皮を剥いた状態で検収する珍しい方式)

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