文月ブログ

木を燃やす発電の限界

FIT(固定価格買い取り)制度が始まったのは2012年。数十年かけて育った木を燃料にすることへの抵抗感から、私はボイラーの仕組み知ろうと通信教育で勉強し、2015年の5月に国家試験を受けてボイラー技士二級の資格を取った。そして産業用ボイラーの効率の高さと、過去に起きた事故の教訓を活かした幾重もの安全装置に感嘆した。同時に、ボイラー協会講師の「発電用ボイラーは我々のものではない」という言葉が印象に残った。通常のボイラーは労働安全衛生を司る厚生労働省の管轄なのに対し、発電用ボイラーは経済産業省が規制や監督を行っているらしい。
それから10年。先日、1999年にバイオマス産業社会ネットワークを立ち上げ、長く持続可能なバイオマスエネルギーの推進に取り組んで来られた泊みゆき氏の講演を聞く機会があった。重要な情報の詰まった講演だったが、中でも特に強い印象を受けた事柄を列挙してみる。

*日本のバイオマス発電の7割は海外からの輸入燃料(PKS/ペレット)で、総コストの7割が燃料代なのに、それが海外に流れて地元の経済に寄与しない
*2023年の輸入PKSは約600万トン、インドネシア・マレーシマの農業残渣なのでほぼ上限、木質ペレットはベトナム・カナダ・アメリカがほとんどだがいずれも課題だらけ。
*ベトナムではペレット製造向けのアカシア植林が天然林を圧迫し、認証偽装の問題も起きた。森林は付加価値の高い製材向けを優先して利用するのが望ましいが、誰も異を唱えられない。
*カナダでは老齢林の皆伐で木質ペレットが作られているが、植林後20年たっても炭素蓄積は元の森林の3割に留まる。使われなかった土壌中の部分を考慮すれば更に低い数字。
*アメリカでは貴重な動植物の生息する森林も含めて伐採されており、大規模ペレット工場の大気汚染法違反が相次いでいる。倒産したエンビバ社はグリーンウォッシュの典型とされる。
*そもそもバイオマスはカーボンニュートラルなのかという深刻な疑問。生産・加工・輸送にかかる温室効果ガス(以下GHG)と、燃焼すると熱量あたり石炭以上のGHGを排出するという事実。欧米では発電のみのバイオマス利用への補助金を停止する流れ。
*国内では木質チップの高騰が続く。バイオマス発電はFIT無しには成り立たないが、稼働は当面続き、輸入燃料が頭打ちのため燃料材の需要は増加し続ける。
*大量の木質ペレット輸入は森林伐採の圧力になり、気候変動対策に逆行するリスクがある。熱利用は効率90%以上も可能で、他の再エネに匹敵するGHG削減効果がある。しかし発電はエネルギー効率が30%程度で、ライフサイクルGHGや炭素蓄積回復の困難さを考慮すれば温暖化対策の効果は限定的。早期にフェイドアウトを促すべきではないか。

結論から言えば、私が10年前に抱いた危惧は間違っていなかったと思う。各地にできたバイオマス発電所が、これまで利用されなかった林地残材を燃料として買うことで、林業を下支えしてきたのは事実だ。しかし日本ではFITによる発電が先行し、本来目指すべき熱利用のための制度の拡充や技術の普及が妨げられた側面があるのではないだろうか。FITが終了すれば発電事業は成り立たず、別の用途を探すことになるが、10000kwクラスの場合、熱容量が大き過ぎて需要を見つけるのが難しいそうだ。そしてまだこれからも発電所の稼働は続き、燃料価格の上昇と分別にかかる人件費の問題から、建材として使えるものまで燃やされることも起きかねない。それを防ぐためにも、山側が木材を住宅部品にまで高め、誰よりも木を高く買う事業が成り立つことはとても重要だ。国難級の災害に備えた住宅の社会的備蓄と組み合わせ、実現に挑む人達を、私は精一杯応援したい。

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