北千葉にあるモックの大型パネル工場を、林野庁と三県の、合わせて9人の行政官が視察に訪れた。一行は事前に海浜幕張のウッドステーションで、木造大型パネルが情報の集積体であることの説明を受けている。塩地会長が林業や建築の関係者を工場に案内するのは、高性能な建築部材がどれほど小規模な施設で作れるのか、それを実際に自分の目で確認して欲しいからだと思う。工場の広さは300坪程度、製造ラインの長さはわずか30m、工員4人で住宅一棟部分のパネルを3~4日で作り上げる。条件によっては工員が上棟にも立ち会い、そこで起きたことや現場の大工の意見を次の物件の製造に生かしていく。
工場を視察した行政官の多くは、コンパクトなラインと、働く工員の無駄の無い動き、全てが合理的な仕組みへの感嘆を口にした。その一方で、残念ながら、普通の林業地では山長材のような品質の実現は難しいのでは、という声も聞かれた。大型パネルは金物工法なので、集成材が基本とパンフレットにも明記されている。しかし無垢材でも、山長のように乾燥技術を極めれば、金物工法でも十分に使える。なぜそれが可能になったのかは、山長グループであるモックの榎本哲也社長による次の話に現れていた。山長商店も、もとは原木を製材して売るだけの商売だった。しかし匠の会と協力してプレカットに取り組んだことで、建築現場で必要とされる材の品質と向き合い、徹底的に拘ってきたのだそうだ。
私が以前、山長の工場を訪れた時に聞いたのは、同じ杉の柱でも、一階はE90、二階にはE70を配置し、十分な強度と資源の有効利用を両立させているということだった。山の人々が建築の世界に足を踏み入れ、そこで信頼される木材を提供しようと努力を重ねたからこそ、今の山長ブランドがあるのだと思う。できない言い訳をするのではなく、今すぐ始めれば、数年後には確実に成果が見えてくるのではないだろうか。行政の方々には、是非それをリードして欲しいと思う。ウッドステーションが開発中の次世代情報処理技術は、建築を専門家集団のブラックボックスから引き出し、全てをオープンにする。それは3か月~半年先の需要情報を集積することにもつながる。山側が率先してそこに地域材の情報を掲載し、製材所と連携して大型パネル工場を誘致すれば、住宅・非住宅に関わらず地域の木材需要を取り込むことができる。
モックの工場は、建築と真摯に向き合った山長の人達が、工務店や時にはお施主さんに、山の恵みを直接届けられる「道の駅」のような場所だ。だからそこで働く工員の顔は明るく、毎日が楽しいと言う。一つとして同じものが無い注文住宅の図面を囲み、工員は製造前、完了時、上棟前、上棟後と4回も打合せを重ねるそうだ。治具を工夫し、制震テープのような新しい資材にも向き合い、ミリ単位の精度を実現していく。ある工員は、上棟の際にクレーンで吊り上げられたパネルに大工さんが手を伸ばす瞬間、自分達から彼らにバトンが渡ったようで嬉しいと語っていた。山の人々から引き継がれたそのバトンは、最後は住まい手に託され、幸せな暮らしを支えるというゴールに向かっていくのだろう。
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