森を守るためのコストをなぜ消費者が負担しなくてはならないのか?この問いを発したのは、建築・不動産業界のコミュニケーションギャップを解消し、幸せな暮らしを実現することを謳う会社の代表である。逆に言えば、しっかりした理由があり、それを自分が納得できたならば、施主をも説得してみせるという自信に裏打ちされた質問なのだ。
私は戸惑い、すぐには答えを返すことができなかった。米農家が翌年の作付けをし、漁業者が次の漁に出るための費用を売り値に上乗せすることを、誰が疑問に思うだろうか。食に関わる産業では再資源化のコストを受益者が負担するのは当然なのに、林業はそうではないのか。
この問いの裏には、外材の方が安くて品質が良いなら、なぜ国産材を使わなくてはいけないのか、という疑問があった。これに対しては、消費者があえて高く質の悪い材料を選ぶ必要はない、という答えしかない。木材は国際流通商品なので、十分な競争力を持つ製品を生産する努力は、国や自治体・事業者がしなくてはならない。
しかし実際に起こっているのは、同じ価格にも拘わらず、伐採跡地に再造林がされている木材と、そうでない木材が混在しているという事実だ。工務店も施主も、使う木材がどちらなのかを知りようがない。しかし、「森が維持される木材と、はげ山のままの木材と、品質と値段が同じならどちらがいいですか?」というアンケートを取ったら、施主は恐らく100%、森が維持される木材を選ぶのではないだろうか。生産者を動かすのは消費者の声だ。建築・不動産関係者には、消費者に対して再造林されない木材が市場にあふれていることを伝え、森を維持しようとする事業者の木材を使いたい、という声を市場に届けて欲しい。
木材トレーサビリティを担保する技術は既にある。伐採後の造林・育林がされているかどうか、確認する方法も沢山ある。消費者が、自分の払ったお金に再資源化経費が含まれていることを自覚し、その履行に目を光らせるようになること、それが日本の森林を真の資源にする道ではないだろうか。
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