文月ブログ

森と生きるために-信州大学での新たな挑戦

2023年1月4日、信濃毎日新聞の一面に、「デジタル在庫で木材受注生産」と題した記事が掲載されました。副題には「ドローンやAI活用 使える立木の情報収集」「価格安定 持続可能な林業へ」という文言が続きます。本文は、この事業を手掛ける信州大学農学部の加藤正人先生への取材を基に、AIなど最新技術を駆使し、建築需要に応じて地域材を受注生産する仕組みの確立を通じて、木材価格の安定化と森林資源の有効活用を目指すことが説明されています。戦争や物価高など暗いニュースの多い中、明るい未来を予見させる、仕事始めの日に相応しい記事でした。
私は来週から、信州大学農学部の加藤先生の研究室で、週の半分ほど勤務することになっています。伊那キャンパスは実際には南箕輪村にありますが、伊那市も南箕輪村も、移住先として高い人気を誇る、活気ある自治体です。加藤研究室では、昨年のウッドデザイン賞を受賞した「ドローンtoハウジング」、ドローン計測と解析による詳細な木材情報を直接建築部材につなげる試みを具体化しようとしており、私はそのレポートと共に、この仕組みを実験に留まらない事業として確立するための仕事をする予定です。
信州の地域材と言えば最も多いのはカラマツで、樹齢65年以上の大径木の蓄積は300万㎥に近いとされています。(信州木材認証製品センター資料より)10年ほど前までは、地元の素材生産事業者からカラマツの用途を模索する声を聞いたものですが、現在ではロシア産木材の代替として合板の表面に使われるほか、2×4(ツーバイフォー)工法の部材として十分な適正を持っていることが確認され、今後活用が広がることが期待されています。人工林と言えば杉・檜を思い浮かべますが、次に多いのがマツです。カラマツは強度が高いものの、乾燥後も反りやねじれが起きやすい、難しい木だそうですが、だからこそ、長期間の保存や長距離輸送を必要としない、地元ですぐに建築を組み立てる森林直販に適しているのではと考えています。
今回利用する林分の調査は昨年の暮れに行われ、解析を経て建築する物件の必要部材との照合作業に入っています。長年、カラマツの加工に取り組んできた地元の製材所に協力を仰ぎながら、部材のどこまでをカラマツに置き換えられるのか、材の特性と金物との相性など、工務店と細かい部分を詰めているところです。雪解けを待って、5月には最新AIを搭載したハーベスタが林内に入り、目的の木を伐採し、最適な長さに造材するはずです。そのような施業によって生じるメリットとデメリット、恐らく歩留まりの向上と材木価格の上昇に対し、データ入力や確認作業、特殊な取り回しなど施業効率の悪化がどの程度生じるのかを、森林組合の担当者から詳細に聞き取り記録します。どのような作業行程と規模であれば損益分岐点を超えられるのか、必ずどこかにあるはずの答えを探る試みです。
それと同時に、地域材で家を建てようとする工務店を募り、関係者間の勉強会や討論を通じて、この試行を事業にまで高めていく努力も必要になるでしょう。
快適で健康に良くエネルギーコストを抑えられる高性能な家を、地元の木材で安価に建てられれば、域内の経済循環を促し、若い世代の人口流出を減らすことにつながるはずです。更には都会から戻る人も増えるかもしれません。そんな未来を夢で終わらせないために、信州での新しい生活に挑みます。

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