書籍のための原稿を書こうとすると、数字の根拠や出典をいかに厳しくチェックされるか、それを肌で感じたことは大きな学びでした。ブログは気楽なもので、間違いに気づいたり指摘をいただいたりした場合、後で修正することも可能です。そもそも、自分一人で書いているので、恥をかくのも自分だけです。しかし書籍は訂正ができませんし、数字がいい加減だと見られたら、売上にも影響します。複数の担当者や、共著の先生方にも迷惑がかかることになるのです。
そんな中で、今回苦労した数字の一つが、1ha(ヘクタール)当たりの原木生産量がどのくらいなのか、というものでした。樹種や林齢、場所によって全く異なる、というのが一般的な答えですが、それでは今回想定した読者には響きません。現在12,000円前後の杉の原木1㎥を30,000円で買ったら、再造林の費用を賄えるという主張を、ある程度無理のないモデルで説明したかったのです。
しかしこの数字は、林業白書を熟読しても、ネットで調べても、中々説得力のある、引用できる根拠が出てきません。元々千差万別なのですから、公的機関も敢えて出さないというか、集計のしようがないのでしょう。仕方なく、様々なデータから類推してみることにしました。
以前訪れたS森林組合では、年間18万㎥の原木を生産しています。そして350haの面積に再造林を行っています。不適な場所を除いて、100%の再造林をしていると仰っていますから、単純に18万㎥を350haで割ると、1haあたりの生産量は514㎥、仮に1割が再造林不適地だと仮定しても、463㎥になります。もちろん、これは高性能林業機械を使い、皆伐して比較的搬出しやすい場所から生産されたものですから、かなり生産性の高いケースと言えるでしょう。
一方、林野庁が発表している数字では、2020年度の木材利用量が約3200万㎥で、2019年度の3100万㎥より微増というものですが、この利用量というのは、パルプ・チップや燃料用も含めた数字です。原木は製材品や合板等になる木材と定義されていて、実績の出ている2019年の数値とほぼ同じとすれば、約1800万㎥と考えられます。これをどのくらいの面積から産出したのだろうと推定するのですが、生産方法には皆伐と間伐があり、その割合も明確になっていません。かろうじて、2020年度の主伐面積は推定で8万haという記載を見つけました。1800万㎥を8万haで割ると、225㎥ですが、生産量には間伐で出て来た木材も含まれているので、生産性は更に低いでしょう。仮に200㎥としても、S森林組合のケースとは大きな開きがあります。私は頭を抱えてしまいました。
最近、高性能林業機械への補助金など、林野庁が量を増やす政策に傾いているという批判を耳にします。そして、ある県の担当者からは、木材産出量が増えても製材品の生産が増えないという声も聞きました。特に2020年はコロナ禍による需要の落ち込み想定のため、材価がかなり下がった時期ですから、原木でなく、チップや燃料になった割合が高かったのかもしれません。
更に調べると、国税局が税の徴収のために使用している「標準立木材積表」というものを見つけました。杉とヒノキのそれぞれで、標準伐期60年・65年・70年(恐らく成長の早い地域・中間・遅い地域と思われます)の3区分につき、樹齢ごとに標準とされる材積が示されていました。中間の65年標準伐期の、50年生の杉の材積は、417㎥となっています。原木として使える部分は立木材積より低くなるものの、財産と見なすのですから、比較的堅い数字でしょう。仮に4分の3とすれば1haあたり約300㎥となります。それらを勘案し、モデルとして、1haあたり300㎥と言う数字を使って説明することにしました。
こうして振り返っても、あらためて、林業の世界の数字の不明確さ、地域や生産形態による状況の多様さを痛感します。統計数値自体が、節税目的で過小申告されている可能性も否定できません。自分の未熟さと謙虚に向き合い、真に森と生きるために、今後も学び続けるしかないと、覚悟を決めています。
文月ブログ
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