文月ブログ

森を巡る旅-六呂師高原「ツリークライミングに挑戦」

林業塾で森林・林業に「はまった」私は、とにかくどんな事でも知りたい、体験したいという思いに駆られていました。岐阜で特殊伐採に感銘を受けたこともあり、日本にツリークライミングを紹介した方の講演を聞いた私は、すぐにやってみたいと、ネットで参加可能なプログラムを検索しました。首都圏で開催される体験会の実施は半月後でしたが、福井県の六呂師高原では次の週末に入門講座が予定されています。今思うと何と無謀な、と感じますが、その時の私は迷わずその講座に申し込んだのです。
六呂師高原は、今調べても東京から片道5時間近くかかります。当時どうやって行ったのかさえ、記憶に無いのですが、福井駅から出る別の路線に乗ると、有名な永平寺に行けるのだなと意識していたことだけは覚えています。主催者も千葉県からの参加者に驚いていましたが、ツリークライミングの魅力を伝えたいと、非常に丁寧に、熱心に教えてくれました。
ツリークライミングは、ロープやカラビナなど登山用具を用いて、高い木の上で作業する技術を応用したレクリエーションです。危険が伴いますから、まず座学でしっかりと仕組みや安全管理のルールを学び、それからロープの結び方などの実践に移っていきました。木に登るというと、普通は腕の力が必要だと考えますが、冒頭の講演者は、子供でもお年寄りでも、誰にでも可能だと説明していました。障害を持った方が木の上に設置されたツリーボートで笑っている様子も示され、私の好奇心をくすぐったのです。
六呂師高原は、冬はスキー客で賑わう場所で、それ以外の季節も自然に親しめるよう整備された高原でした。森に入ると、最初は講師が参加者のために、あらかじめロープをかけた木に登ります。ヘルメットを被り、体をロープに固定するための頑丈なベルト(サドル)を着け、教わったとおりにロープに足を掛けて踏んでいくと、梃子の原理で少しずつ体が上昇していきます。木の上から見る景色は、想像もしなかった、全く新しい視界が開けたようでした。
参加者が一通り体験し終わると、次は自分の登りたい木を選び、スローラインという細い紐を投げて、そこにロープを結び付けて自分でシステムを作っていきます。目を付けた高木に向けて、体全体を使って投げたラインは見事に枝にかかってくれました。作ったシステムを講師に点検してもらった後、弾む心でロープを何度も踏みしめ、私はその木の樹上に立つことができたのです。木が自分を受け入れてくれた、自分に樹上からの景色を見せてくれたという思い、樹木との一体感は忘れることができません。
ツリークライミングの魅力を知り、ライセンスも取得して道具一式を購入した私でしたが、残念ながら一度もそれを使う機会がありませんでした。その理由は、都市部では、登ることのできる木をなかなか見つけられないということです。自分の家に高い木があれば良いのですが、樹木には必ず持ち主がいて、勝手に登ることはできません。ツリークライミングの団体が公園や山林の管理者に許可を取って開催する体験会くらいしか、木に登るチャンスは無かったのです。田舎に広い土地を持つ知り合いがいて、車で気軽に出かけられる、そんな環境を自分で作れば良かったのですが、叶いませんでした。それでも、ツリークライミングが森と人の距離を縮める、素晴らしい体験であることは間違いありません。森が広く人々に開かれ、気軽に楽しめる機会が増えることを願っています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

TOP