2007年、林業塾の後に参加したイベントで、私は初めて多くの「きこり」に出会いました。木材の伐採を担う人達で、「素材生産業者」と呼ばれます。当時はチェーンソーから身を守る防護服は義務化されておらず、海外メーカーの装備は高価で、身に着けている人はほとんどいませんでした。高齢の方の中には、ヘルメットさえ嫌って付けない方がいたように思います。軽装で腰に鉈を指し、ぶり縄という短い綱だけで木にスルスルと登り、枝打ちをして降りてくる、そんな人達がまだ現場に多かった時代でした。
現在では女性も多く進出していますが、その当時はまだ少なく、一年目のミーティングには参加されていなかったと思います。皆さん、愛用のチェーンソーを持ち寄り、それを会場にズラリと並べて、手入れの良し悪しなど目利きのベテランに厳しく突っ込まれるのを、お互いに楽しんでいました。一様に日焼けした細身の体躯は、重たい道具を軽々と山へ運び上げ、忍者のように素早く斜面を移動します。都会で、すぐ脇に階段があるのに2階のオフィスへのエレベーターを待つ、情けない人達にウンザリしていた私の目にはとても新鮮でした。
一方で、話を聞くと、いかに危険と隣り合わせかに身の凍る思いでした。危ないのはチェーンソーだけではありません。チルホールという、他の木の枝に掛かって倒れない木を牽引する道具がありますが、それが外れて飛んできて大けがを負ったとか、途中で木が裂けて落ちて来たとか、怖い話がキリなく出てきます。それが知らない誰かでなく、身近で起こった話だということに驚きました。当時の全国の林業従事者数は5万人くらい、現在は約4万5千人と言われていますが、年間50人近い人が亡くなる状況は変わっていません。それほど危険な仕事なのに、平均給与は年収300~400万円程度、それでも月給なら良い方で、地域や会社によっては日給の上、社会保険にも入れないという話を多く聞きました。この人達が報われるようにしなくてはいけない、その使命感はこの時からずっと変わりません。
しかしつい最近、ウッドショックによって、全く違う様相が生まれていることを耳にしました。以前から、九州では「コックピット林業」つまり高性能林業機械を操縦するオペレーターが広い面積を皆伐する施業が他の地域に比べて多いと言われてきましたが、ウッドショックで木材の価格が値上がりした分が、山主さんではなく素材生産業者の懐に入っているというのです。相場取引という慣習上、合法でやむを得ないと思いますが、聞くと、林業のことを良く知らなくても、大型機械をリースして、伐って出せば大金が転がり込むというケースがあるそうで、他人の山を勝手に伐採する「盗伐」もそうした業者が関わっているのかもしれません。九州に限らず、広く全国でも起きている可能性があり、胸が痛みます。
私が昔から知っている「きこり」は、自然と向き合い、山を少しでも良くしようとする志や、自分の仕事への誇りを持った人達でした。仕事の細分化は、自分だけが儲かればいいという事業者を生みだします。持続可能性とは、資源の事だけを言うのではなく、関わる人々全てが応分の負担と受益を得ることで成り立つのです。きこりがその重要な責任を果たし、相応しい対価と尊敬を得られる、そんな仕組みの構築を目指していきます。
文月ブログ
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