私がなぜ国産材振興に拘るのか、時間をかけて説明をしても、中々納得してはもらえません。山林を所有している訳でも、林学を学んだ訳でもない、長く一般企業に勤め、何の専門家でもない私が、なぜ国産材利用推進の先頭に立つなどと大きな事を言えるのでしょうか。
その理由と主張を伝えるために、これまでの経験のうち、特に影響の大きかったものとそこで得た学びについて、少しずつ書いてみようと思います。
「家づくり体験塾参加者募集」2006年、新聞の夕刊に乗った小さな記事に、私の眼は吸い寄せられました。千葉県鴨川市の、棚田を守る活動をするNPOが、市に物納された古民家を生かすために、大工の棟梁の指導のもとで家の補修方法等を学びたい人を募る、有料の塾の広告でした。
参加費は当時9万円(翌年から2倍近くに上がったそうです)、交通費や宿泊費は自前なので、一年近く、月に一度泊りで鴨川市に通い続けるのはかなりの負担です。それでも、仕事や私生活での行き詰まりを感じていた私は、何としても参加したいと、応募動機を書く書類に思いの丈を込めて申し込みました。
願いが通じて、参加が叶った最初の回だったと思いますが、木材の伐採現場の見学がありました。環境保護を謳う国立公園のパークボランティアをしていた私にとって、初めて見た伐採はショックの連続でした。
「周り綺麗にして」という監督者の掛け声のもと、作業員は目的の木を安全に伐るために、周囲に茂っていた若木や灌木をチェーンソーでなぎ倒していきます。「えーっ、生きている植物をそんなに簡単に切っちゃうの」と心が痛みました。聞けば、砕石場にするため、皆伐する予定の山林だそうで、私達の見学があろうとなかろうと、どのみち全て伐られる運命なのです。人が食べていくための仕事・産業の現場においては、自分の感傷など何と小さなものなのか、それを学んだ一日でした。これが、私が林業を巡る、長い旅路の出発点になりました。
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