文月ブログ

命の画像化が生みだすもの

ずっと話に聞いていた先端技術が息づき、確かな鼓動を刻んで生れ落ちる日を待っている、そんな光景を目にした。大型パネル生産パートナー会総会、先日そこで披露された開発中のサービスのゲートウェイは、意匠AIと呼ばれる画像解析技術で作られている。建物の平面図と立面図を読み込ませるだけで間取りや開口部・窓の種類まで判別し、柱の芯を結ぶ正確な座標点を抽出する。その技術をウッドステーションがこれまで積み重ねた建築ノウハウと融合し、自動のパネル割りや伏図の作成など、いくつもの一般向けサービスが産声をあげようとしている。そのうち最も早い事例では、大手住宅ビルダーの設計支援を行う企業が、意匠AIの解析データを自社システムに投入することで、これまで3営業日かかっていた工程を10分に短縮できる見込みだという。
意匠AIを開発した技術者は、もとは大学で林学を学ぶ学生だった。ドローンを飛ばして森にレーザーを照射し、点群データを解析して資源情報を割り出すリモートセンシングを学び、関連のベンチャー企業に就職した。しかし樹種まで特定する詳細情報の解析には1㏊あたり数十万円の費用がかかる。山林を所有して丁寧な管理をしたいと希望する一部の顧客を除けば、依頼の多くは自治体からで、納品した森林情報は担当者の机の引き出しにしまわれたままというのが実態だった。調査費用をかけてもそのコストを上回る木材価値の上昇が見込めないなら、ビジネスとして成り立つ見込みは薄い。彼とその仲間が離職を考えていた時期に出会ったウッドステーションの塩地氏は、モニター上に再現された森の様子を目にし、そのリアルさに息を呑んだ。木の幹の曲がりや瘤だけでなく、枝の張り方や一枚一枚の葉に至るまで、命を写し取ったような圧倒的な美しさを備えた画像、これができるなら、建築図面のPDFを読み解いて実物を再現できると閃いたのだそうだ。
自分のやってきた仕事に最も拘りをもっていた彼は塩地氏のもとで開発を続けた。PDFデータの整理にはつてを頼ってスーパーコンピューターを利用し、様々なAIに詳しい人物から適合する技術や学習方法の助言も得た。建築に関する素養の無さが先入観に囚われないアプローチを生み、建築の必須条件に絡む部分はウッドステーションの技術者がサポートした。AIに正しく学習させるには、人が丁寧に教えないといけない。ここがリビング、ここは和室、バス・トイレ・収納などを平面図で、屋根・窓・バルコニーなどを立面図上で線描して色付けする。最初は境界のはっきりしないシミのようだったAIの間取り判定は、根気のいるプログラム補正を経て精緻になっていき、壁・屋根・窓といった十数個のAIが連動することにより、一年足らずで大手メーカーのシステムを動かすほどに成長した。
開発の延長には、人による入力作業の省力化に留まらず、建築という仕事が専門家による囲い込みから放たれ、多くの人の手に委ねられる時代が待っている。そうなって初めて、詳細な森林資源情報は、森と建築を直線で結ぶ手段としての価値を持つだろう。森の命を写し取ろうとした技術者が、森と建築を結ぶ技術の扉を開けたのは、決して偶然ではないような気がする。そこから生まれるのは、森と日本人が紡いできた長い歴史の絵巻に連なる、新しい物語なのかもしれない。

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