文月ブログ

森林直販と産直住宅の違い

山側が自ら手掛ける森林直販によって、木材の価値を最大化できる、住宅資金が域内に循環し、地域の経済が潤うと、私は訴え続けている。しかし、その中身が理解されないのは、やはり私の説明が不足しているからなのだろう。特に、各地でいわゆる産直住宅を手掛けてこられた方の中には、自分達はずっとやってきたという思いがあって当然だ。ならばどこが違うのか、明瞭にしなくてはならない。
これまで産直住宅を手掛けた方々の多くは、立派に手入れされた森を守りたい、そこから出た材をできるだけ高く売りたいと、自ら製材し、設計を学んで工務店を興し、材の価値がわかる人を探して、誠実に家を売って来られたと思う。そうすることで利益を山に還し、地域に根差して暮らしてきた方々には本当に頭が下がる。しかしそのやり方では、大手ハウスメーカーを退け、地域材に拘りの無い一般の工務店にまで材料を供給することは難しく、年間数棟~10棟程度の受注に留まるケースがほとんどと思われる。結果的に、住宅建設で得た利益を山に還そうとしても、維持できる山林の面積は限られる。
森林直販は、言ってみれば「小規模OEM」である。OEMとは、依頼元のブランド名で製品を作ること。最近では、台湾の鴻海(ホンハイ)精密機械工業が、スマートフォンなどの受託製造で培った技術をEVに応用し、三菱自動車のEV製造を受託すると発表して話題になった。そのように、山の近くで質の高い住宅部品を製造し、工務店に供給する事業が森林直販の要となる。従来の産直住宅と最も大きく異なるのは、AIを使って森林資源と実需をマッチングさせ、受注した分だけを伐る、オンデマンド生産であることだ。木材の先行予約と言っても良い。
日本の住宅は敷地が狭く、隣家との兼ね合いもあって、どうしても一棟一棟が異なる注文生産になる。規格化は難しく、どんな木材がどれだけ必要なのかはギリギリまでわからない。そんな需要に対応するため、材木屋や製材所は在庫を抱えてきた。特に製材所は、一本の丸太からいかに多くの材を採るかという「木取り」の腕を競い、実際にはいつ売れるかわからない在庫の山を積み上げてきた。山の人達も、「木は伐ってみなければわからない」とプロダクトアウトに専心し、実需を考慮しない生産によって買い叩かれても仕方の無い状況に甘んじてきたと思う。
現在、住宅産業の常識を完全に覆すようなサービスの開発が進んでおり、人手不足の中、提供が始まればあっという間に利用が広がるのは間違いないと見られている。そのサービスによって蓄積される、地域ごとの建築計画=設計図書=詳細な木材情報をまとめ、それに沿って山を計画的に伐採・造材し、効率的に製材・乾燥させ、住宅部品にまで加工するのが森林直販だ。そうすることにより、歩留まりの向上、横持ちコストの消滅、管理費等の圧縮で、地域のどの工務店にとっても、その住宅部品を採用することが最も経済合理性に適う状況を作る。そうすれば、誰よりも山を高く買い、工務店に安く提供し、施主に喜ばれる強固なサプライチェーンを創出できる。規模感で言えば、人口10万人の地域に建つ木造住宅の平均365棟(R6年実績)のうち、100棟にこの仕組みを適用すると、約2000m3の製材品=4000m3の原木=10000m3の素材生産量を設計図書とマッチングさせる。全て皆伐再造林で賄えば、毎年約30㏊の森が更新され、10人以上の造林・育林の仕事が生まれる。
事業参加者に課せられた唯一の条件は、「地域の森林資源を守る」という事だ。将来にわたって富を生み続けるには、森林の成長の範囲内で行い、伐ったら必ず植えることを前提としなくてはならない。例え住宅を望む希望者が多くても、その年の生産計画を超えたら、次の年まで待ってもらう。新車を予約しても納車に何年もかかる自動車と同じで、それが森林の価値の維持につながる。
AIを駆使したサービスの開始は来年の春頃の予定だ。取らぬ狸の皮算用になるのか、山側が主体となる森林直販の呼び水となるのか、私は後者だと信じて、これからも訴え続ける。

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