製材品1m3あたりの再造林費用が、佐伯は他の地域に比べて非常に低い金額に抑えられているようだ。しかし、1㏊当たりの再造林費用は決して安い訳では無く、むしろ全国平均(R6年度の林業白書によれば295万円)を上回る。防鹿柵の資材などは大量に仕入れることでコストを下げているものの、ネットは防弾チョッキに使用されるポリアミド製、価格は高いが重量が通常のステンレス製の半分以下で、造林作業の負担軽減につながっている。枯死した苗は組合が負担して補植し、その額は1,000万円を超える年もある。下刈り作業単価なども隣県の水準より高いようだが、それだけで人が集まるような飛び抜けた金額ではない。しかしなぜ、造林をやりたいと希望する人が絶えないのか、最も大きな要因は、長期的な仕事量が確保されていること、そして伐採時に地拵えが半分終わっているという作業のし易さにあると思う。
佐伯では、植栽した場所は同じ人が5年間、継続して育林を行う。苗の補植は組合負担とは言え、できればそんな手間はかけたくないので、自然に作業が丁寧になる。毎年通うので、どこがどの時期・時間帯に作業をやりやすいか、計画を自分達で決められる。
更に大事なのが、伐採事業者に課したルールによって、山主にも造林事業者にも恩恵が生まれていることだ。佐伯では、立木の根元の2メートルを外して造材し、その部分はバイオマスへ、枝葉は敷地の一角にまとめて置く、というルールを直営の伐採班だけでなく全ての事業者に徹底させている。2メートルあればグラップルで掴みやすく、短いタンコロが林地に残るということも無い。バイオマスの売り上げは山主が負担する再造林費用に充当することでほぼ100%の再造林を実現し、造林事業者にとっては地拵えが半分終わった状態になっている。これを実現するまでに、佐伯では山主さんに伐採事業者の人気投票を行うなど様々な工夫を凝らし、長い時間をかけてルール順守が当然という風土を作ってきた。
佐伯で製材品1m3あたりの再造林費用が低い最も大きな要因は、やはり97~98%という補助率の高さにあるだろう。再造林条例を施行した宮崎県でも9割、多くの地域では7~9割というのが一般的な補助率のようだ。大分県では国や県・市の補助に加え、「森林再生機構」からも1㏊当たり5万円の補助が出ている。これは市場と原木の売り手・買い手が、1m3につき10円~20円を負担する制度だそうだ。わずかな金額とは言え、原木を扱う事業者が再造林費用を負担する取り組みは意義深いと思う。
関係者が声を上げ続けて実現した高い補助率、造林の担い手育成、伐採事業者と山主への再造林意識の浸透、これをうまずたゆまず、愚直にやり続けてきたことが、佐伯がここまでできている理由だ。佐伯に視察に訪れる人の多くは、規模が大きいから、収穫量が多いから、(自分達には無理)という残念な感想を抱いて帰るらしい。本当に見るべきなのは、ここに至るまでの小さな努力の積み重ね、それをしたかしないかが生む差の大きさなのだが。
山腹に植えられた小さな苗木が、渇水や強風と闘い、雑草に埋もれながら天に向かって伸び、50年という時を経て大木に育つ。健やかな成長に近道はないということを、佐伯の人々は自らの仕事に学んできたのだろう。
文月ブログ
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