文月ブログ

災害備蓄がつなぐ新住宅産業と国産材

国難級の災害による住宅不足に備えるカギは、工業化手法を取り入れ、地域材を活かす小規模なサプライチェーンを全国に沢山作ること。4月8日に発行されたばかりの「新住宅産業論」は、その意義と具体的な手法について、防災・建築・林産業の専門家が同じ志のもとに集結した本だ。タイトルだけ見れば住宅業界の話だろうと思ってしまうが、内容は林業・木材産業の関係者にとって必読の本である。

ここ数年、木造建築の関係者が山(林業・木材産業)に関心を寄せ、実態を知ろうと努める姿を多く目にするようになった。一方で、木造マンションや高層ビルへの国産材の利用を華々しく宣伝しながら、伐採跡地の再造林率が30~40%に過ぎないという負の側面を無視しているとしか思えない建設業界に腹立たしさを覚えてもいた。そんな中で、私はこの本で初めて、住宅産業の関係者が、国産材・できれば地域の材を活かして使うための現実的な方法を提案し、真剣に林産業の関係者と連携しようとする姿勢を見たと思う。

森林から住宅への無駄を省いた垂直統合は、これまでも多くの地域・人々が取り組んできた。ただ、ごく一部を除き、どうしても複数の事業者が関わる事で割高になったり、非常に少ない棟数に留まったりして、大きな波にはならなかったと思う。この本で提案されているのは、先端技術を用いた工業化によって、小さな工場でも高性能な住宅部品を組み上げるプレファブリケーションだ。工場を森林資源のすぐ近くに設置し、木材加工業の生命線である「場所の力」を最大限発揮させる。そして木材生産と住宅需要の量的・時間的なズレを埋めるのが、主筆の長坂教授(立教大学大学院社会デザイン研究科)が提案する、移設可能なモバイル建築を活用した「住宅の社会的備蓄」という新しい試みだ。

衰えた住宅産業の足腰を、山際まで行って工業化することで鍛え直し、減っていく大工の能力を無駄な力仕事に奪われないようにする。山側は自ら工場を運営することで、どんな材が求められるのかを知り、それに応えていく。そんな夢のような好循環が実現する可能性を、この本は見せてくれる。

在来木造は部品点数が多く、全てを地域で賄うのは困難かもしれない。その点、2×4は材種が絞られ、近年の人工林の大径化で、スタッドに適した材が増えている。長年、アメリカやカナダから輸入されてきたSPFは材質が落ちて来たと言われ、円安も追い風になる。

こういったことを、東大名誉教授の酒井先生や、全木連の本郷浩二氏が解説し、日本の林業・木材産業にとって局面を打開する好機だと述べておられる。

そしてウッドステーション会長の塩地氏による第三章では、日本の地理・歴史を俯瞰する、森林と木材加工・建築の関わりが語られる。それはあたかも大河ドラマを見るような、雄大な構図と深い因果の物語で、林業・木材関係者も、こんな視点があったのかと膝を打つに違いない。在来でも、2×4でも、地域の特性や日常のマーケットに則した工法を選んで取り組むことが可能であり、ただ一つのルールは地域の森林と雇用を守ることだ。

日本の森林・林業と住宅産業の幸せな結婚は、地域の持続的な繁栄と、国難級の災害に備えた住宅備蓄という、双子の救世主を生み出すだろう。世の中はトランプ関税が引き起こす混乱の真っただ中にあるが、それに劣らない壮大な歴史の転換を、私達は目撃しているのかもしれない。

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