文月ブログ

建築図面のわからなさ

建築の素養はゼロの私だが、大量の木材を使い、炭素を長期間固定するのは木造住宅なので、少しでも勉強になればとある仕事を引き受けた。AIに深層学習をさせるため、住宅の平面図と立面図を見て、データを抽出する作業だ。平面図ではリビングダイニングや洋室・和室、浴室・トイレ・洗面、玄関・階段・廊下などの範囲を細かく指定していく。立面図では建物の外周と、屋根や妻壁、開口などを指定する。慣れないうちは、横から見た窓のシャッターボックスを建物の外周に含めたり、給湯器を勝手口と勘違いして開口にしたりと、笑える失敗もした。
作業を始めて分かったのは、建築図面の描き方がいかに千差万別か、ということだ。使われるソフトも多種多様なのだろう。玄関部分は縦横のマス目で表し、ホールとの境目は二重線といったざっくりしたルールはあるようだが、柱の表現も、仕切り線の書き方もバラバラだ。次第に作業に慣れてきても、迷うことは沢山ある。階段下収納の範囲がどこまでかわからない。店舗と住宅を兼ねた物件で、お客が来る一階にトイレは無いのか不思議に思ってよく見ると、二階に上がる階段の下にそれらしいマークがある。畳小上がりと書かれているが範囲が不明。防火FRP防水仕上げ、と記載された部分は調べるとバルコニーらしい。立面図に階高が無くて妻壁の範囲がわからない。極め付きは、上部ロフトとか小屋裏収納と書かれているのにその部分の図面が無いケースも。ファイル名に最終と記載された図面でもそうなので、これで実際に家を作る大工さんは天才だとつくづく思った。
聞けば、木材の発注は、どんな材を何本という数量ではなく、図面をポンと相手に渡すのだそうだ。供給者はそれを見て、ラインマーカーを片手に必要な材木の種類や量を割り出して現場に持っていく。その時点で価格を決めるので、拾いもれがあって足りなければ、1本でも追加料金無しで届けなくてはならない。
こんなバラバラな図面を基に商売をする、人が住む家を実際に建てるなんて、とても無理!と思うようなことを、住宅産業の方々は日々実行している。AIが賢くなって、取引や作業内容の透明性が高くなることは、関わる人々にとって朗報に違いない。そして更に、必要な部材のデータが見積もり時点で掴めるインフラができれば、地域材の供給に道が拓ける。建築図面のわからなさが、林業と建築を分離させてきたとするなら、人が介在することのデメリットを無くしていくAIは、むしろ人を地域の森に近づけてくれるかもしれない。

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