32年連続スギの生産量日本一の宮崎県が、7月2日に再造林条例を公布・施行した。「再造林の理解促進」など4つの基本理念のもと、県・市町村・森林所有者・森林組合・事業者・県民がそれぞれ果たすべき責務や役割を定め、「再造林の推進に向けた気運の醸成」など5つの基本施策を推進するというものだ。
宮崎県と言えば、特にここ数年、誤伐や盗伐の頻発と、それが刑事事件として立件されないケースが多いことが話題になってきた。一部の事業者のせいで県全体のイメージが悪くなり、真っ当な林業関係者はどれだけ悔しい思いをしてきたかと思う。事件にならない理由には、立木の経済的価値の低さや、土地の境界の曖昧さ、地域に根差した様々な問題が絡んでいるようだ。今回の条例によっても誤伐・盗伐や跡地の荒廃は無くならないという見方もあるが、私は大きな前進だと思う。
宮崎県は、もともと低かった再造林率を、最近では70%にまで引き上げてきた。全国平均が30~40%とされる中では高い方だが、更に上の90%を目指すという。100%でないのは、経済的に成り立たない場所など、無理して同じ樹種を植えるよりも混交林や広葉樹林に誘導する方が適切な場合もあるからだ。植えているのは無花粉や少花粉のスギなので、花粉症の方にも安心して頂きたい。
私が以前、話を聞いた森林組合の担当者は、素材生産事業者が伐採した土地にも再造林を進めたいが、管轄地域が6市町村に跨っているため、所有者の情報を得るのが難しいと話していた。彼らにとっては、自治体に事業者や森林所有者との連携・情報共有を促す条例は確実にプラスになるはずだ。
木を伐採して得られる収入は昔に比べて遥かに低く、経費を差し引いて所有者に戻る金額は、九州でも1ヘクタール当たり100万円前後と聞く。再造林とその後の育林には、各種補助金を使っても所有者の負担が10万~20万円かかるので、何もせず放置してしまう人も多い。
責任の放棄は、未来への諦めと背中合わせになっている。自分の子や孫が同じ地域で生きていくと思えば、誰が山を荒れ地のままにするだろう。どうせ誰も継がないという諦めが、伐採時の利益を懐に入れ、後は知らぬという利己的な行為の根っこに横たわる。自分だけなら後ろめたいが、他の人も皆やっているとなれば、無責任の連鎖は止まらない。再造林条例は、その流れを断ち切り、例え自分の血族でなかろうと、将来世代に豊かな森を遺す使命が森林所有者にはあるのだと思い起させるものだ。
血の繋がりで維持されてきた地域コミュニティは、子や孫が出て行って戻らなければ、縮んで衰退してしまう。一方で、地域おこし協力隊のような、全く別の地域からやってきた人を上手く受け入れ、移住者や滞在人口を増やす事例も増えてきた。再造林を促すことは、自分の子や孫だけでなく、いつかそこで生きていく多くの子孫に向けてバトンを手渡そうと声をかけ、伴走し、時には手を添えることだ。暮らしが続いていくことを諦めない。その強い意志が、再造林を通して地域の人々の心に灯り、強い結び付きを生んでいくことを願う。
(写真は宮崎県の再造林パンフレットより)
文月ブログ
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