森林産業の実現のために、山側のICTは今どんな状況なのかを知りたいと思った。関連雑誌にはスマート林業の実例などが紹介されているが、実際に現場にどの程度浸透しているのか、誰に聞いても良くわからない。自分で調べてみることにした。
林野庁やいくつかの自治体、森林組合や林業会社、レアなところでは木材運送を担っている建設会社など、半年間に様々な人から話を聞いてみてわかったのは、やはり誰も全体像を把握していないし、それほどに林業の地域差が大きく、場所や規模、業態が異なるとまるで別世界だということ。しかしそんな中でも、産業規模や域内での位置づけ、組織形態、樹種や成長量など、いくつかの指標を用いてパターン化することはできそうだと感じた。
調べてみるまで、私はそもそも全国の林業生産状況さえ正確に掴めていなかった。21年度の木材統計を見ると、素材生産量で最も多いのが北海道で14.5%、2位が宮崎で9.3%、岩手、秋田、大分、青森、熊本、福島と続き、その8道県で全体の54%を占める。半分以上が北と南で生産されているのだなと初めて知った。
林業ICTと一口に言っても、航空レーザ計測などによる地形・資源情報の管理、施業や生産の進捗管理、林業機械の自動化・遠隔化、造林・保育への導入など幅広い。しかし私が聞いた範囲では、林業現場で実際に使われているデジタルデータは、どこに道を付けるか、どう搬出するかなどの判断に役立つ微地形図が多いようだ。CS立体図と言って、「標高」「傾斜」「曲率」をそれぞれ別の色調で着色し、重ねて透過処理することで作成した地形表現図法が良く知られている。これを使いやすい環境かどうかは、各都道府県の林業ICTへの取り組み姿勢を表しているかもしれない。
林野庁の研究指導課に聞くと、CS立体図をオープンデータ化しているのは栃木、東京、長野、静岡、岐阜、兵庫、高知の7都県で、実は先述した8道県はこの中に入っていない。素材生産量で言うと、栃木県の10位から兵庫の24位まで、42位の東京を除けば中位クラスの県なのが興味深い。そしてこの7都県は、高知を除き、県内総生産で上位の21位までに入る、比較的予算規模の大きな県である。(R2年度統計)
データの収集・解析にはお金がかかる。しかも林業生産の上位8道県は、域内で重要な産業として、既存の組織による生産・流通の仕組みががっちり出来上がっており、微地形図の公開のような新たな手法の導入に対するモチベーションが必ずしも高くないのかもしれない。微地形図をオープンにしている県は、東京のように予算に余裕があるか、これから成長産業として発展させるための投資として重要だと考えているのだろう。高知県は総生産額では鳥取に次いで下から2番目だが、日本で最も森林率が高く、林業を産業の柱にしていきたいという意欲が実現を後押ししたのだろうか。
微地形図は、他にも広島・愛媛・岡山などで一部公開しているらしい。状況は常に変化するし、私が聞いた狭い範囲の出来事が全体を表しているなどと、勘違いするつもりもない。それでも、今どうなっているのかを知ることで、今後どうなっていくのかを少しでも予測したい。知らないこと、見えていないことを自覚し、謙虚に耳を傾ける、それを通じて、林業が変わっていく過程で何かの役割を果たせるかもしれない、そんな期待を胸にドアを叩き続けようと思う。
文月ブログ
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