文月ブログ

不都合な現実に向き合う

ファンタジーは甘く美しい。それが若者の将来を拡げる夢に繋がって欲しいと思う一方、現実を覆い隠すために使われてはいないか、そこは注意が必要だ。

最近、都市部で木造高層ビルの建設がブームになっている。国産材を使い、カーボンニュートラルだ、SDGsだと企業は自社の取り組みを宣伝するが、多くの場合、その木材がどこで伐採され、その跡地がどうなっているのかに全く関心を払っていない。日本の森林が伐採された後、再び植林される割合は3割程度だと林野庁も認めているのに、自分達が使う木材が森林の維持を前提としたものかを無視し続けて良いのだろうか。大手企業は自分達の扱う原料が児童労働や人権を無視した環境で作られたものでないことを、それが世界の反対側であっても確認しようとしている。それなのに、日本国内で起こっている事象に目をつむるのは、投資家や消費者に叱られなければそれでいいという心積もりなのだろうか。

鹿児島に年間6万~8万m3を扱う大型の製材所ができ、当初は出せないと言われた太さ30㎝を超える大径材が、実際に買い始めたらいくらでも出てくるようになったという。CLTと2×4(ツーバイフォー)を組み合わせた格安の住宅は、今はまだ輸送の制限から受注棟数が限られ、主力はオリジナルの建材や2×4のスタッドのようだ。増加し始めた中低層マンションなどに使われているのだろう。ハイテク工場で材料を無駄なく利用し、地元に雇用も生む工場関係者の表情は明るかった。

一方、工場を訪問したのと同じ頃、大隅半島で活動するNPOのメンバーから届いた文章にはこんな言葉があった。「大隅の山は、県外業者による伐採が無秩序に行われ、再造林されない事案が多く、いわゆる禿山が目立っています。我が町におきましても地拵えどころか、目も当てられない惨状の山が多く、地元民から不安の声が上がるほどです。」荒れた山の再造林に取り組む森林組合はキャパオーバー、苗木も不足する中、彼らは針葉樹の再造林だけでなく、広葉樹の導入やビオトープ化なども考慮に入れながら、森林の幅広い活用を通してその機能を高めようと模索を続けている。

伐採後の林地に責任を持たない人々が納材する先は、先ほどの工場とは限らない。他の工場や市場、遠方の仲買人かもしれない。いずれにしても、荒れた山の様子に心を痛め、対処を迫られるのは地元で暮らす人々だ。国産材の描く夢には無責任の連鎖という影が二重写しになっている。この事実といかに向き合うかで、その企業の価値を計りたいと私は思う。

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