2019年の初冬、自分達の行動が社会にどうインパクトを与えていくのか、それを体系的に表すロジックツリーと呼ばれる関連図を、私は苦労して書き上げました。その中で考えたのは、林業や木材産業の関係者だけでは問題は解決できない、花粉症という、ある意味タブーな言葉を使ってでも、多くの人の関心を引き付け、資金や注目を集めて事態を前に進めようということでした。林業の関係者は、杉やヒノキを花粉症と結びつけて話すことに不快感を示します。それを自分でも感じ、人から聞いてもいましたが、そこに切り込むような斬新な取組をしない限り、木材の価値向上や森林再生は望めないと思ったのです。
それだけでなく、森林環境譲与税を活用する自治体向けの情報発信を通じて、コンサルティングや様々な事業者との仲介も行う計画でした。ホームページは任意団体として作ったものを改定すれば良いですし、法人名も、「FORESTREAM(フォレストリーム」をそのまま使います。
2020年の年明け頃から、NPO法人設立に向けた様々な準備を始めました。法人として事業を行うのですから、理念や目的に賛同し、会費の支払いや労働力の提供という形で、事業運営に参加してくれる人がいなければ成り立ちません。以前から一緒に活動していた知人に相談し、理事や監事を引き受けてもらいました。また、丁度その頃、ある木材関係の資格認定を目指す講座を受講していたので、その同期生にNPOの主旨を伝え、そこでも幾人か社員になってもらいました。
設立に向け、私は東京都のポータルサイトから資料をダウンロードし、それを熟読して必要な書類を作成していきました。税金の優遇を受けるので、当たり前のことですが、書類の内容は多岐にわたり、二年分の事業計画書と予算書まで作成・提出しなくてはなりません。大変だとは聞いていましたが、途中で何度もやめてしまいたいと思いました。当時は本業でも苦労が続き、それと並行しての設立手続きは、私の人生において最も困難な作業だったと思います。ようやく書式が整い、申請書が受理されたのは、2020年の4月でした。
2020年の春と言えば、新型コロナウィルスが世界中に広がって猛威を振るい、日本でも外出自粛や在宅勤務が広がった時期です。私は5月に定年を迎え、仕事の引継ぎができ次第、会社をやめてNPOに専念するつもりでしたが、コロナのために全ての予定が狂ってしまいました。一番大きかったのは、交代勤務で人数が半分になったために、仕事の引継ぎが思うようにできなかったことです。6月の始めにはNPOの設立が認可されましたが、私が会社を辞められたのは10月末のことでした。
新型コロナウィルスはその後も拡大し続け、先の見通しが全く立ちません。花粉症は命に関わるコロナの前では霞んでしまい、NPOで当初計画していたことは大幅に見直しを迫られました。生活のことを考え、私は知人に紹介された木材団体で、年明けから働くことを決めたのです。しかしその団体で一年あまり勤務した後、私はそこが自分の居るべき場所ではないと判断して退職しました。しばらくして、今の会社に入社することになり、私はようやく、自分が本当にやりたかったことができる環境を得ることができたのです。
NPOは、結果的に何の活動もできず、解散手続きをすることになるでしょう。協力してくれた方々には申し訳ない思いがありますが、新電力がバタバタ潰れる現在の状況を見ると、正直なところ、迷惑をかけずに済んだのかもしれません。
そして何より、寄付や助成金に頼って活動するなら、結局は今の日本の林業と同じだと気づいたことが、自分にとって大きな進歩でした。堂々と利益を追求し、人がお金を払うにふさわしいと思う価値を提供することを、今は真剣に考える毎日です。
ここに至る道筋は困難の連続でしたが、一つずつ階段を上がって、ようやくたどり着いた場所です。振り返って、改めて貴重な経験だったと思います。
文月ブログ
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