文月ブログ

森を巡る旅-「森の健康診断」

森の健康診断は、2005年に岐阜県の矢作川水系で始まり、その後全国にも広がった、市民の力を生かす森林調査です。公式ホームページには下記のように記されています。
『「愉しくて少しためになる」を合言葉に、市民が森林ボランティアや研究者と一緒に流域の人工林に分け入り、科学的に調べ五感で体験するのが森の健康診断です。』
具体的な方法は、25㎡の四角の中にどんな植物が何本生えているか、土の状態はどうかなどを調べる植生調査と、100㎡の円内に杉やヒノキなどの植栽木が何本あり、胸高直径(地面から1.3メートルの高さの直径)や樹高はどのくらいかを調べる混み具合調査の二つで成り立っています。人工林の間伐遅れが問題になっていた時期で、林内の混み具合と、それによって植生がどのような状態になっているかをセットで調べ、持ち主に間伐の必要性に気付いてもうらうことが目的だったと思います。
調査に使う道具は、全て100円ショップで調達できるものに限っています。記録用ボードや方位磁石、釣り竿・巻き尺・簡易な傾斜計など、安く手に入る物を使って計測していくのです。ちなみに、釣り竿は何のために使うか、おわかりでしょうか?
答えは、100㎡の範囲を決めるためです。5.65メートルの釣り竿を伸ばし、先端までの長さの内側にある木にチョークで印をつけて、詳しく調べていきます。樹高の高さの目測にも、釣り竿が活躍します。
私は、2008年か9年頃に岐阜県美濃市の長良川流域で行われた健康診断に参加しました。5~8人が一つのグループで、車に分乗して診断地域に向かい、車を降りてからは自然観察や地域の事情に詳しい人の話を聞きながら、楽しく歩きました。測定地点に着くと、健康診断に熟練したリーダーの指導を受けながら、植生調査と込み具合調査を進めます。最初はぎこちなく時間もかかりますが、昼食を取った後の二回目の場所では、参加者が要領を掴み、測定が手早く進んだ記憶があります。とても楽しく、子供でもできるので、環境教育にも適した、素晴らしい活動だと思いました。
私が参加した頃には、GIS上に診断した地点の緯度経度、調査日時などを記録できる仕組みも稼働し、これを全国に広げるぞ、という熱気に溢れていました。その後、実際に各地に広がり、北海道・東京・島根など、様々な地域で実施されています。しかし、コロナの影響もあったのか、サイトの実施団体リストは2018年で更新が止まるなど、今は少し寂しい状況のようです。原因の一つは、診断はしても報告書を出すだけで、その結果が治療に結びつかないということかもしれません。これは活動の当初から言われていたようですが、治療、つまり間伐の促進までしようとすると、市民の力で楽しく行う活動の範囲を超えてしまう、だからあくまでも報告書に留め、その結果は行政や研究機関が生かしてくれればいいというのが、提唱した人達の総意のようです。
今見ると、ホームページでは2022年6月の岐阜県恵那市での開催案内が紹介されています。森の健康診断を通じて、地域の森に分け入り、その状況を実際に見て、自分の手で調べるという体験が、いつか森林の未来への責任の自覚、そうした理解を前提とした購買や投票行動につながることを、推進者の方々と同様、私も信じたいと思います。

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