文月ブログ

温熱の工夫で価値を増す中規模木造

長野県須坂市に完成した998㎡の木造社屋を見学させて頂いた。このクラスの建物は通常S造・RC造がほとんどなので、完成検査に来た方も勉強になったと言っていたそうだ。設計を統括したサトウ工務店の佐藤氏によると、現在はゼネコンも人手不足で、1,000㎡という、彼らにとっての小規模物件はあまり受けたくないらしい。住宅着工棟数が減っていく中、小さな工務店が力を合わせ、それぞれの得意分野を生かして中規模木造に取り組むことには大きな可能性があると思う。
設計・構造・建て方などについては上棟見学会の際にも聞いていたので、今回新鮮に感じたのは温熱設備に関してだった。長さ66.4m、奥行き14.5mという細長い建物の左右の端には試験室と製品の検査室があり、そこは搬出入のための開口も大きいので、空調は天井カセット型、いわゆる天カセエアコンが設置されている。中央部にある事務スペースと広い社員食堂、そして中2階は大きな一つの空間を共有していて、そこに今回、パッシブ換気という仕組みが導入された。簡単に言ってしまえば、冬は1階のエアコンで床下に温かい空気を送り込み、夏は2階に設置したエアコンから冷気を噴き出して、ぬるい空気を一階の低い位置から排気する、建物自体を空調・換気装置にするという考え方だ。住宅用の熱循環装置は以前からあったと思うが、手掛ける会社が少なく、故障するとその会社に頼んで修理してもらわなくてはならない。今回、この設備を担当したのは北海道の会社で、使用する機器は全てが汎用品、故障しても自分達ですぐに修理・交換ができるメリットを謳っている。このスペースは566㎡、容積は2,176m3という広さなので、通常なら5馬力以上の天カセエアコン10台は必要になるところだ。それが今回の建物で設置したのは、暖房用エアコン4台、冷房用が3台、全て家庭用の14畳タイプだと言う。余計な機能のない廉価な製品で良く、冬と夏、それぞれにしか使わないので、通常10年の寿命なら倍近く持つ可能性もある。まだ工事中だった今年の冬、外気温がマイナス7度まで下がった日でも、室内は19.3度に保たれていたそうだ。エアコンの風が苦手な私のような人間には、頭が涼しく足もとが温かい職場というのは心底羨ましい。
建物の建築費用は立地や用途、設計や設備によって大きく変わるので、木造にすれば全て安くなると一概には言えない。しかし今回のケースでは、鉄骨造に比べ25%程度コストを圧縮でき、中央部の屋根を支えるトラスには信州カラマツを、外壁には杉を使って、地域貢献を含めた発注者の満足度は高いと聞いている。実際に使用が開始された後、快適性や光熱費のかかり方についても情報を提供頂けたらと思う。
建物の裏庭には多くの木が植えられ、憩いの場になりそうな木製のベンチがいくつも設えられている。住宅を手掛けてきた工務店の集まりだからこそできる、居心地の良い空間造り、それが木造の価値をより多くの人に認めさせ、国産材・地域材の活用につながっていくことに期待が持てる見学会だった。

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